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あなたに愛を伝えるために、わたしは今日も、黒く塗りつぶされる文字を綴る

作者: 澪ナギ
掲載日:2025/12/01

過去テキレボに寄稿したお話

 愛の言葉を言えない。



 「好き」っていう二文字も、「大好き」って四文字も。

 あのとき言いたかった「愛してる」っていう五文字も。


 たったの数文字。でも言うってなったら緊張しちゃう、愛の告白。


 もしあの頃。

 あなたに言えていたならどんな反応をしたんだろう。照れて、たまにそっぽ向いちゃって。そのあと。



 ”俺も愛している”、なんて。



 やさしく笑って、言ってくれたのかな。




「…」



 ふとときどき、そんなことを思ってしまう。

 よく思うのは、恋愛漫画とか映画を見たとき。


 主人公たちはお互いにちゃんと「好き」って言いあって、最後には「愛してる」ってちゃんと言って。物語はハッピーエンド。

 幸せな数時間の物語。



 でも、



「…」



 わたしには、それができない。



 リアス様と、カリナとレグナと。これからもずっといっしょにいたくて、四人で未来を歩いていきたくて決めた天使の日々。

 決められた日に消滅を繰り返しちゃうけれど、きっと、あの頃願っていた「未来」の歩き方とはちがうけれど。でもたしかに、四人で歩く時間を手に入れて。



 代わりに失った、大好きなリアス様への愛の言葉。




 「好き」が言えない。

 「大好き」も言えない。

 あの頃一番伝えたかった、あの日に伝えたかった「愛してる」も、言えない。



 言おうとするたびに、呪いで喉が痛くなって、言葉が出せなくて。





 あなたに「愛してる」を伝えられないまま、もう数千年が経った。






「……俺は別に言葉が欲しいわけではないが?」

「わかってるもん…」



 ハッピーエンドの物語。エンディングが流れてるとき、ときたまぼんやりしてしまう二人の時間。

 伝えられていいなっていうのが伝わったのかな。リアス様はわたしの頭をゆっくりなでてくれる。


「言葉がすべてじゃないだろう」

「…うん」

「お前が傍にいてくれているだけで、俺はお前から愛を感じる」

「…」


 やさしく抱きしめられて、やさしく「大丈夫だ」って言われて。心にあふれてくるのは、ちょっとのうれしさと、罪悪感。


 ずっと伝えられないでごめんねって、後悔。


 もしわたしじゃなかったなら。そんなこと言ったらリアス様怒りそうだけど、でも。


 もしもあなたの恋人がわたしじゃなかったら。


 きっとたくさんの「愛してる」を、もらっていたんじゃないかって思う。

 あなたが一度も言われたことがない、「愛してる」を。


 もっと、もっと。



「…」



 伝えられないからって、伝えたくないわけじゃ決してない。

 わたしができるやり方で、たくさんの愛を伝えたい。それなのに、わたしは一番言いたい言葉を言うことはできない。

 もどかしくて、いらいらもして。悲しくて。


 だんだんと、呪いじゃない方で喉が痛くなってきたときだった。



「…?」


 リアス様がゆっくりと頭なでてくれてる中。ぎゅって抱き着こうとしたときに顔を横に向けたとき。


 それが目に入る。



 CMで、音楽に合わせて男のヒトと女のヒトが笑いあってる。


 そのCMでは、男のヒトが手に何かを持ってた。

 リアス様の心音を聞きながら、見入ってると。



 男のヒトは、女のヒトの前に片膝をついて、手に持ってるものを女のヒトに渡す。

 四角い紙の中心に、ハートのスタンプみたいなのが押されたもの。そのあとに、CMの文字で。



 ”大切な人へ送る手紙”



 そう、書かれていて。




「…!」




 瞬間、これだって閃いて。




 いきなりごきげんになったわたしにびっくりしてるリアス様に、自分でもわかるくらいわくわくした顔で、笑った。







「あった…」


 リアス様が帰ってから、机の引き出しを探してお目当てのものを取り出す。

 ケータイが出てきてから使わなくなった便せんと封筒。


「…ちょっと古い感…」


 いろんな方向からそれを見ると、全体的に色が変わってる。買い換えたほうがいいかな。

 でも一人で行くのなんてリアス様絶対だめって言う。いっしょに買いに行ったらばれちゃう。


「…」


 手紙の枚数は残り一枚。

 これは、


「…れっつチャレンジ…」


 ばれないようにするにはもうこれでがんばるしかないと。


 わたしは、ペンを手に取った。





 なんて書けばいいのか最初はわからなくて、便せんと家にある辞書とたくさんにらめっこした。




 リアスへ、だけでいいのかなとか、なんかこう、しんあいなる、みたいなの書けばいいのかなとか。手紙の書き方には「はいけい」って言葉もあって。

 とりあえず書いてみて、でもしっくりこなくて何回も消して。ぼろぼろになった手紙にまた文字を書く。


 なんて書けばいいんだろう。

 どうやって始めればいいんだろう。うんうんうなりながら書いては消して、また書いて。



 もう出だしからじゃなくてとりあえず一番伝えたいことを一回書こうかって思って、一文、書いてみた。



「…ありが、とう」



 わたしのことを、愛してくれて。



 そう書き始めたら、すんなり次の文字が書けた。




 ずっとずっと、今この時までもずっと。わたしのことを愛してくれてありがとう。


 一度も言うことはできなかったけれど、わたしも。



 わたしも、あなたが大好きで、愛してます。




 そうしてこれからもずっと、あなたを。


 愛しています――。




「…」


 ぼろぼろの手紙に書いた、たった数行の文字。でも、一番伝えたい言葉たち。


 あなたへの感謝と、愛の言葉。



 伝えられるかな。

 伝わるかな。


 ずっと言えない、愛の言葉。



 きっと伝わるよね?

 

 長年の付き合いだからか、妙にその確信だけはあって。



「…♪」



 せっかくなら、みんなに大好きを伝えようって、また数行足していく。カリナとレグナにもたくさんの大好きを伝えられるような内容をしっかり書いて。


 古くなった紙がやぶれないようにていねいに折って、近くに置いてた封筒を手に取って。

 大事な大事な、あなたへの愛が詰まった手紙を入れた。


 CMみたいなスタンプはないけれど、気に入ってるシールを貼って、一度手紙をぎゅっと抱きしめる。



 どうか伝わりますように。



 たくさんの想いを込めて、お願いして。


 明日、あなたたちに届けようと。

 引き出しにしまって、部屋の電気を消した。






「……手紙?」

「ん」


 ちょっとだけ寝不足の次の日。幼なじみ四人で集まった今日。さぁなにしましょうかってカリナが言ったとき、立ち上がって。


 こっそり持ってた、昨日書いた手紙をリアス様に差し出した。



 顔はやっぱりおどろいた顔。それを見て、カリナが自分のことみたいにうれしそうに笑った。


「まぁ……お手紙ですか」

「み、みんな、に…」

「まぁ! 私にもあるんですかクリスティア!」

「便せん一枚、だったから…みんなに、書いた…」


 大好きの想いを。

 きっと伝わったらしいレグナがいたずらっ子みたいに笑って、リアス様の方を向く。


「よかったじゃんリアス、ラブレター」

「……」


 ラブレターってわかった瞬間にリアス様はほんの少し照れた顔をした。それに、どんどんわたしの方のどきどきもおっきくなる。


 これから読んでもらうんだ。

 わたしの、ずっと伝えられなかった愛の言葉。


 痛いくらいの心臓の中。


「……クリスティア」

「うん…」


 リアス様はわたしを手招き。歩いていったらリアス様に腕引っ張られて、ぽすんってひざに座った。

 ありがと、って言うみたいにリアス様は一回わたしにすり寄って。



 わたしが持ってる手紙を、手に取る。


「…」


 おっきな手で封が切られていく。カサッて音立てながら少しずつ手紙が抜かれていくのに、どきどきが加速してく。

 でも、やっと――って。

 わくわくみたいなのもあって。



 期待と、不安で。リアス様が手紙を開いていくのを、見たら。




「!」

「…?」



 なんとなく、手紙に違和感が、あった。


 うっすら見えた中に、書いたはずのない黒い何か。


 なに、って。

 どきどきが、変などきどきに変わってく。不思議に思ったレグナもカリナも周りにやってきて。



 リアス様が完全に手紙を開いたのを、四人で見届けた。




 瞬間に、息がつまったような感じになる。




「…」



 その、手紙の中は。





 「愛してる」とかの、愛の言葉のところだけ、まっくろに塗りつぶされてた。




 ペンなんかじゃない、なにかこう、変な感じの。



 ――まるで、呪いみたいな、まがまがしい何かで。



 あぁ、わたしは。




 わたしはあなたに、本当に愛を伝えられないの。



 そう理解したのと同時に、リアス様から手紙を奪い取って、ぐしゃぐしゃにして、ぎゅっと抱きしめる。



「…ちが、くて」

「……」

「書いてた、ん、だけど…」


 どうしよう。


 せっかく書いたのに。みんなへの「大好き」を。

 やっと、リアス様に「愛してる」を伝えられると思ったのに。



 そっと横を見たら、カリナもレグナも、心配そうな顔してる。カリナは泣きそうで。

 そんな顔させたいわけじゃなかった。あの日、背中押してくれたカリナにも、「大好き」って伝えてまた笑ってほしかったのに。

 レグナにも、安心した顔させたかったのに。




 ――わたしがこんなことしたから。



「ご、めんなさい」



 後悔でいっぱいになって。自然と口から出たのはそれだった。



 伝えたい言葉とは違う、謝罪の言葉。


 リアス様の顔は見れないまま、手紙を抱きしめてこぼしてく。


「…その、書いてたん、だけど、あの…」

「……」

「その…」


 なんて言えばいいんだろう。恥ずかしくなっちゃって自分で消した?

 また今度書くね? どう、言えばいいの。


 …書いても。


 こんな、ぐちゃぐちゃな手紙になって、伝えたい言葉は消えてしまうのに?

 そう思うと、


「…ごめん、なさい」


 結局出るのは、その言葉。



 部屋は静かになって、重い沈黙が走り続ける。



「……」


 いやなどきどきがずっと耳で聞こえる中。


「…」


 手紙を、ぎゅってしていると。



「……クリスティア」

「!」


 後ろから、声がかかる。

 それに思わずびくついて、また手紙をぎゅっとした。


 そう、したら。


「…?」


 やさしく後ろから抱きしめられて。横を向いたら、リアス様の顔がすぐ近くにあった。


「…」

「まだ読めていないんだが」

「?」

「手紙」


 なに、言ってるの。


 そんな目で見ても、紅い目はただただまっすぐわたしを見て。


「まだ読めていない」


 同じことを言うだけ。


「もらっても?」


 一瞬うなずきかけたけれど、すぐに首を横に振った。


「何故」

「手紙、ぐしゃぐしゃ…」

「ぐしゃぐしゃにしたのはお前だろう。読もうと思ったらすかさず手にとって握りしめて」

「だって」


 だって、こんな。


「こんな、まっくろでぐちゃぐちゃな手紙、見せられない…」

「お前そんなに字下手じゃないだろ」

「そうじゃなくて…」

「くれたものなんだから俺達の自由にする権利がある」


 早くって。

 手を差し出された。でもどうしても渡したくなくて、代わりに自分の手を置いたら違うって頭はたかれて。


「いたい…」

「手紙だっつってんだろ」

「…」


 これはもう譲る気ないなっていうのは長年の付き合いでわかりきってるので。


「…」


 観念して、まるまった手紙をわたした。


 それをリアス様はていねいに開いていって。



 まっくろに塗りつぶされた部分が多い手紙を、ゆっくり読んでいく。


「……」

「…」


 静かな時間。

 こわさでどきどきしながら、手紙を読んでるリアス様を見上げてった。


 読めなくてしかめっ面してないかな。悲しい顔、しない?

 そう、不安で、見上げてったら。


「…!」


 手紙を見て、やさしく笑ってるリアス様が目に入った。


「…な、んで、わらってるの…」

「お前らしくて」

「なにが…」

「一生懸命なところが」


 そうして、頭をなでてくれながら。


「一人で書いたんだったか」

「…ん」

「書き方はなんだと辞書でもいろいろ調べたんだろ」

「…」

「親愛なるだとか、書けないくせに拝啓だとか。書いた痕跡がすげぇあるぞ」

「どれ」


 隣に来たレグナに、リアス様は手紙を見せる。

 そうしたら、レグナも笑った。


「ほんとだ。しかも拝啓ってひらがなで書いてんじゃん」

「そのあとに本日はお日柄も良くと書いてますわ」



 笑って、また読むために。みんなのやさしい目が紙の上を進んでく。


 そうして、進むごとにそのやさしい顔はもっともっとやさしくなって。


「クリスティア」


 読み終わって、リアス様から。紙からわたしに目を向けた。


「…なぁに」

「ありがとう」


 言いながら、目元を拭ってくれて。こつり、額が合わさる。


 もうそれだけで、気持ちがあふれ出してしまって。


「っ、めん、なさっ…」

「……」

「ごめんなさいっ…結局、伝えられないっ…」


 涙があふれるまま、あなたにそう伝えたら。


「ちゃんと伝わっている」


 あったかい温度が、わたしを抱きしめてくれた。

 そうしてゆっくり頭を撫でて。



「俺も愛している、クリスティア」



 伝えられない想いに、あなたは答えてくれた。

 それに涙を流しながら、今度は頭を撫でてきたやさしい手を感じる。


「嬉しいですわ、クリスティア」

「今度みんなで手紙交換でもしよっか。クリス」

「…」

「また書いてくれますか?」


 まっくろな手紙をわたしに見せて、みんなで。



「「「愛してると」」」



 黒く塗りつぶされたはずなのに、伝わった愛の言葉を口にした。

 結局わたしは、愛の言葉を言うことはできないけれど。



「…っ」



 それでも、伝わってくれる。わかってくれるひとたちがいる。


 そのうれしさに。


「…うんっ」


 わたしは、まっくろな手紙を強く抱きしめた。




『あなたに愛を伝えるために、わたしは今日も、黒く塗りつぶされる文字を綴る』/クリスティア




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