初めての実践①
「ゴブリンと一対一をしてもらう。」
「は?」
次の日、いつものように稽古をするためストレッチをしていると信じられないことを耳にした。
昨日いつものようにダメだしをされたばかりだというのに、師匠は何を考えているのだろう。
「坊主と同程度の強さのゴブリンにするから安心しろ。どんなに強くても、殺しに慣れてなければ宝の持ち腐れだからな。
しっかり殺すことに慣れてくれ。」
そこまでいったら英才教育を優に超えて虐待だろう。
顔が引きつる事を自覚しつつも、師匠の説明に納得している自分がいる。
殺しなんてスラムにいれば、いつかは訪れる未来だ。それが早まっただけ。
「はぁー…」
ただ、前もって言って欲しかった。
そう思いながら、私は師匠について行く。
草木の影に隠れて、ゴブリンの様子を窺う。湧き水を必死に飲むゴブリンはこちらに気づいていない。
奇襲するには絶好のタイミングだが、体が変に重たい。
一歩目を踏み出す勇気もバレた後の動作も、考えているのに否定しようとする自分がいる。
ピクリと肩が動いた。
私は咄嗟に一歩踏み出した。恐らくゴブリンからしたら何でもない動作、生理現象なのかもしれない。
それでもこの緊張感に耐えられなかった私は走り出す。
「うわぁぁぁぁ!!」
奇襲に大声を出すのは最悪の一手だろうが、そんなこと気にしていられない。
うわずった声に恥ずかしさを覚え、それでも余裕が生まれた思考で必死に戦いの道筋を立てる。
水飲んでいる最中に驚いたからだろう。咳き込み隙が生まれたゴブリンに、私は首への突きを選択する。
貧弱なこの肉体でも人体の弱点に当たれば勝ちである。
狙った突きは僅かに逸れ左肩に一撃を与える。
失敗した。
反撃を警戒してすぐさま距離を取る。
力んでしまった。
『Gyyyazaaaaaa!!』
怒り任せの甲高い声に体が強張る。
反省は後回し。目の前のことに集中しないと…
適当に振り回される棍棒を避け、機会を窺う。
技術なんてゴブリンは持っていないが、威力には目を見張る物がある。それこそ私なんて一撃で死だろう。
師匠なら「ギリギリで避けろ。」と文句を言いそうだが、冗談では無い。死を間近にしてそんなことを言えるのは狂気の沙汰だ。
ただ、大きな隙がある。左肩の一撃が思ったより効いているようで、ダランと垂らしている。
そのせいで重心がうまく取れないのか時折ふらつく。
今だって、あっ。
ふらつきバランスを取るために出した足が泥にはまり、つまずく。
予想外の形で生まれたチャンスだが、私はすぐに前に出る。
棍を上段に構えながらゴブリンの頭めがけて一直線に駆ける。
小細工なしの一撃を脳天に叩き込む間近、ゴブリンは
笑った。
嗜虐的で寒気がする笑顔。
「死ねぇぇ、餓鬼!!」
罵声を浴びせるが、笑みは深くなるばかり。
脳天めがけ振り抜くと同時に、ゴブリンの横殴りの棍棒が無防備な横腹を捉え、私は吹き飛ばされた。




