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魔術

「踏み込みが甘い! それでは力が入らないだろ!」


私の全力の突きはいとも簡単に逸らされ、空を切った。

返しの一撃を警戒して距離を取ろうと左足を下げる――


「痛っ!」


残った右足を絡め取られ、あっけなく尻もちをつく。


「重心を意識しろと言っているだろう。もう一回だ。」


「はい、師匠!」


一廻を習得してから一年。私は自分の成長をはっきりと実感していた。

湖には季節を問わず食料が豊富にあり、飢える心配はない。栄養価も高いのか体も大きくなった。

激しい稽古にも耐えられる体力を得たのは大きな進歩だ。「身体強化」も同様に成長しており、戦闘中でも一廻を難なく回せる。集中すれば、二廻も可能だ。




常識についても徐々に学んでいる。文字が書けるようになり、スラムにいた頃の自分からすれば、今や優等生といえるだろう。

今日の授業は貴族についてである。



「では貴族は皆、魔法を使えるのですね?」


「そうだ。だが、正しくは魔法ではなく魔術な。勘違いする者も多いが、魔術と魔法は別物だ。」


初耳である。


「魔術には四つの要素が必要とされる。まず一つ目は運、もしくは血だ。火、水、土、風のいずれかの属性を持たなければ魔術は使えない。血を引く者、つまり貴族は必ず魔術を得て、それと同時に特権を与えられる。」


なんともうらやましい限りだ。魔術も使えて、特権も貰えるとは…

私の表情を見て、師匠は苦笑する。


「特権といってもあまり良い物では無いぞ。彼らは自分のことよりも家の意向を重要視しなくてはいけないからな。ほとんどが政略結婚で、豪華絢爛なパーティーも腹の探り合いで気が抜けない。法によって民への不当な搾取は罰則対象だ。」


絶句である。

想像しただけで嫌気がさす。貴族でもこんな仕打ち。世の中世知辛い。


「話が逸れたな。運って言ったのは貴族以外でも稀に魔術を使える者がいるからだ。だが、それでも貴族には劣るし、坊主のように魔術の知識が無い者がほとんどだけどな。」


魔術を使いたいと思っていたが、残念だ。努力ではどうにもならないと知り、肩を落とす。

諦めるしかない――そう思いながらも、無駄と分かっていながら口を開いた。


「後の三つは何ですか?」


「二つ目は術式だ。魔術の回路を頭の中に描き、そこへ魔力を通す。詠唱を使えば自動で回路は組まれるが、その分、発動は遅くなる。詠唱を重要視する者は、魔術の本質を理解していないな。」


想像しにくいが、なんとか飲み込む。

要するに詠唱は補助具にすぎず、重要なのは術式そのものだということか。


「三つ目は魔力。量だけでなく、操作の精密さも求められる。そして最後に呪文だ。魔術を発動させるための鍵であり、呪文を唱えなければ発動しない。」


「じゃあ、呪文を覚えておけば敵の魔術に対応できるんですか?」


「やはり頭が回るな、坊主。魔術師同士の戦いは、いかに多くの魔術を知っているかで勝敗が決まる。ただし、術式はある程度、術者によって変化する。威力も射程も人によって全く違う。」


へぇ……「知識」に無かったことを知るのはやはり面白い。

思っていた以上に理論立てられた魔術に、強い興味が湧いてくる。


「では、魔法はどんなものなんですか?」


「分からん。ただ、魔力を消費するのは確かだ。」


「魔術についてはあれだけ知っていたのに…」


「使える者も限られているし、能力も千差万別。正直、よく分かっていない。」


何でも知っている師匠が分からないとなると興味がわく。

未知の力――ならば、もしかすると私にも扱えるかもしれない。

そう考えると、なんだかワクワクする。



魔力について分かりづらいので補足を追加します。


魔術は回路を作り、魔力を流し、呪文を唱える事で発生します。回路作りの際に詠唱することで自動的に回路が作れますが、そこには術者のオリジナリティーは存在しません。誰が詠唱しても同じ回路ができあがります。詠唱を使わず回路を作ることで術者がカスタマイズできるようになります。

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