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地図

いつも通りの稽古を終え、釣りで得た魚を食べる。

食糧確保をこの森ですましている私は昼に食べる量がとても多い。

3匹の魚を平らげ、「身体強化」で骨まで頂く。罪滅ぼしのために木の実を口に放りこみ、再度魚を食べ始めた。

カルシウムやビタミンなんちゃらとか、「知識」からの受け売りで栄養を意識しているがここまで成長できているんだ。問題は無いだろう。


「そういえば坊主は戦争に行くのか?」


「何の話です?」


戦争?そんな話は一切聞いていない。

そもそもスラムの住人よりも騎士団や市民が参加するのだ。戦果を上げれば厚遇される戦争の枠がスラムにまで回ってくるはずが無い。

そんな私の反応が意外だったのか、師匠は地面に地図を描き始める。

それは何度も授業で見た地図で大陸全土を簡素に描いていた。


挿絵(By みてみん)


なんとも親しみ深い地図だ。それもそのはず南アメリカ大陸と形がそっくりであり、初めて知ったときは驚いた。

私のいる国、ラト王国は二つの大国と国境を接していて、蛮族の襲来も日々起きている。

この中で戦争となると軍拡を推し進めている帝国では無いかと推測する。


「いいか、これは秘密だぞ。実は今、リトア連合国とエスト帝国二つの国に攻められている。」


「それって…」


「ぁぁ、スラムの住人だろうと成人にもなっていない坊主だろうと、戦争にいける可能性が高い。」


年齢の規定もあるのか。

スラムの住人だという事以前に年齢をクリアしなくてはならない。そのことがすっかり頭から抜け落ちていた。


現在の身長は160cm程度。年齢は詳しくは分からないが、「知識」を得てから8年がたっている。仮に「知識」を得た当時が4歳だったとして12歳。

誰がなんと言おうと、自分は少年兵だ。

つまりそんな私を徴用するほどならば、もはや勝ち目なんてないのでは無いか。


「もう王国が負けるって可能性はありますか?」


弱気な質問に師匠は力強く首を振るう。


「負けはしない。これは断言できるな。」


「どうしてですか?」


「南には辺境伯がいる。」


この国で辺境伯と言えば一つしか無い。

遙か昔、四方にあったとさせる辺境伯家は外敵からの攻撃や財政難で3つの家が断絶した。

その中で唯一残った辺境伯こそ、ディエン辺境伯。

スラムの間でも話題になるほどの貴族家で、師匠の授業でも度々登場し記憶に残っている。


王国の五分の一もの領土を下賜され、それと同時に国の盾しての役割が与えられている。

赤龍山脈からの魔物を防ぎ、蛮族を追い払い、帝国との小競り合い…

その強さから一国の戦力と同等とまことしやかに噂されている。

通称”南の怪物”


噂を聞いていると帝国を相手するのに不足が無いように思える。


「とはいえ、今回の戦は普段の乳繰り合いとは話が違う。連合国相手に王国としても辺境伯という強力なカードを失った今、切羽詰まっているだろう。」


「だから私も可能性があると。」


頷く師匠を見て、私は考える。現実味を帯びてきて、他人事ではいられない。


戦争か…


別に戦争の善悪を問うわけでは無い。

人型を殺すことにも随分慣れたし、スラムに何年も住んでいたら人の死を特別視しない。

ただ何か葛藤があるのか「知識」が邪魔しているのか、言いようのない不安感が拭いきれない。


「言うの忘れていたが、今日で稽古はお終いな。」


「え?」


「戦争で俺も忙しくなってしまった。残念だが今日で終わりだ。」


あっけらかんと喋る師匠とは裏腹に、私はガツンと頭を殴られた気分になった。

師匠はいつも突然に言う。

別れを寂しがるような間柄では無いのは分かっている。

それでも、ここまで成長できたのは師匠のおかげで私は何も返していない。


「これでも俺はお前の師匠なわけで、別れに何も無しっていうのは何か癪だ。

そうだ!あの技をもう一度見せてやる。しっかり糧にしてくれ。」


「ですが私は師匠に何一つ恩返ししてません。普段の食事に、様々な知識をくれました。最後までおこがましく甘い蜜を吸うのは…」


「ハッ、笑わせるな。何も返せてないって?当たり前だ。

お前は餓鬼で俺は大人。

お前は弟子で俺は師匠。

見返りを求めて餓鬼の世話をするわけじゃあねぇし、見返りを求めて師匠になったわけじゃあ無い。

勘違いすんな、坊主。」


私は師匠の顔をまじまじと見てしまう。


「師匠ってそんな熱いこと言えるんですね。」


「言うな、言うな、恥ずかしい。

俺はこんな事言うキャラじゃ無いってことは分かってんだよ。」


「いい歳したおっさんがキャラとか気にするんですね?」


「黙れ、坊主。

着いてこい、さっさと教えるぞ。」


私は生きていて親という物を一切感じたことが無い。

スラムの人間は自分のことで精一杯で他人を気にかける余裕が無い。私を子供として、庇護対象として見ていない。

だから、新鮮だった。師匠に言われて。

嬉しかった。


恥ずかしかったのは師匠よりもむしろ私自身だったのではないか?

取り繕うように話しかけ、ごまかしたのは…


火照った頬を拭い、師匠の背中から目を逸らした。



画像は国土地理院で作らせていただきました。

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