初めての実践②
体が宙を描き、泥と血の匂いが鼻を突いた。視界がぐにゃりと歪み、世界が遠ざかる。
立ち上がろうとするが、足は空回りを繰り返し、地面をつかめない。
最悪だ。
なんとも情けない。
普段なら気づけた罠にも簡単にはまってしまった。いや、それもただの言い訳か。勝利に浮かれ、落ち着きを忘れた自分への戒めだろう。
それでも立ち上がり、体勢を整える。
「廻せ、廻せ、廻せ。」
クールに。
頭を冷やして。
稽古のように、一廻でいいからきちんと廻せ。
半眼でゴブリンを見据える。脳天への一撃が効いたのか、奴は棍棒を落としうずくまっていた。
それでも真っ赤に充血した目で睨みつけてくるゴブリンに、
私はとびきりの笑みを返した。
木々の隙間から見える夜空は美しい。爛々と輝く星々に、満ちた月。
圧倒される空と、勝利を奏でる風。鼻についた土の匂いだけが現実感を繋ぎ止めていた。
「痛っ!」
体を起こそうとした瞬間、思いがけない痛みに悶える。
戦いは泥仕合だった。決定力に欠ける私の棍と、必死に爪で応戦するゴブリン。
結果は私の勝利であったが、殺しきるまでに随分と時間を要した。
「どうだった?」
「死ぬかと思いましたね。」
嫌味の一つくらいは許されるだろう。
「そうか。なら辞めるか?」
「辞めませんよ。」
「ははっ、即答だな。」
「ですが、少し唐突すぎるというか…」
私の苦言にも師匠は揺るがない。
「戦いは唐突に始まるものだ。安心しろ。本当に死にそうになったら助けてやる。」
全然安心できない。
それでも、死に抗う術を叩き込んでくれる師匠には感謝している。
それにだ。
「死にませんよ。あの技を使えるようになるまでは、絶対に。」
「坊主も物好きだな。あれの何がいいんだか。」
オークの頭部が弾け飛び、血が咲き、脳漿が飛び散る。
あの一撃――脳裏に焼きついた技が、今も離れない。
血に興奮しているわけでも、猟奇的な趣味があるわけでもない。
ただ、
ただ、
「美しかった。それだけです。」




