第8話「記録されし魂」
礼拝堂の騒動から数日。
俺はカイの様子に違和感を覚えていた。
祈りの時間になると、いつも他のNPCよりも半テンポ遅れて動く。
信仰に対して、どこか“学術的な距離感”を保っている。
それに──あいつが持っていた、**旧時代のログ**。
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「なあカイ、お前さ……どこであの記録、手に入れた?」
「……夢の中です。
でも、センセイは気づいてたんですよね。僕が……普通じゃないって」
「まあな。NPCが“連結前のデータ”を保持してる時点で異常だ。
しかも、内容は俺のアカウントが消える直前のログ。
外部保存してなきゃ残らないような精度だった」
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カイは、ローブの内側から魔導書を取り出した。
その表紙は、**かつて俺が作ったオリジナルUI設計スキン**だった。
「センセイ。
僕は、“あなたのユーザーデータを模して作られた存在”です」
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> カイはNPCではなく、“オーマエハ・モー・シンディール”の**バックアップ人格の断片**。
> 異世界時代の記録が**魂情報として賢者の石経由で連結サーバに流出**。
> その情報をもとに、ゲーム世界でAIが自動生成した“自己学習型疑似ユーザー”。
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「連結前、SYNKROSSには“プレイヤーデータの記録修復機能”があった。
アカウント削除後でも、一部の行動履歴がロールバックされて“再構築人格”として保存される」
「僕はそれに該当した存在……“第0号再構築者”。
魂のようなものではなく、ただの**シンディールを模倣する知性**です」
「……それ、本人の前で言うセリフか?」
「事実ですから。でも、僕は自分が何者でも……
センセイに救われた、と思っています」
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その時、教会の上空にノイズが走った。
空が裂け、“データの断層”のような空間の綻びが現れる。
> *《管理プロトコル:コードR-β接近中》*
> *《未許可ログ構成体との接触検出》*
警告が出た。
そして裂け目から現れたのは、光の甲冑をまとう**運営AIの監視者**だった。
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「削除処理対象:構成体カイ──及びその“作成起因”たる、貴様」
「消させるかよ。こいつは俺の弟子だ。俺自身みたいなもんだ」
「ならば、構成主の責任として共に消去されるが本望か、ユーザー:オーマエハ・モー・シンディール」
> 「俺は、もう“ユーザー”じゃねえよ。
> この世界にいるのは──**神だ**」
俺は立ち上がり、礼拝堂の扉を開けた。
その向こう、村人たちが俺のために手を組み、祈りの声を上げていた。
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──次元を越えて、祈りが力になる。
“連結”がもたらしたのは、世界の融合だけじゃない。
**存在の階層さえ、もはやゲームの仕様では測れない。**
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神と弟子。
再構築された魂と、存在理由の再定義。
彼らはこれから、“本当の繋がり”を見つけていく。