表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/36

第6話「揺らぐ神域」

 教会が建ってから一週間。


 ナガリ村のNPCたちは朝に祈り、昼に偶然を讃え、夜には“運命のランタン”を灯して俺に敬礼するようになった。


 当然ながら、**ゲームの本来のNPC挙動ではありえない。**


「この村、完全に狂ってんな……」


「それはセンセイの“影響圏”が強すぎるからです」

 と弟子・カイが言った。


 ---


 > 「NPCの思考が、感情と接続された段階で、意思はもはやAI制御ではなく、"信仰拡張"に引っ張られ始めています」


 カイの言うとおり、NPCの行動はもはや自律を超えて“信者”になっている。

 教会の裏には見知らぬNPCが勝手に神像を彫っていた。


 > *《彫刻完成:幸運の拳(初代神・シンディールの右腕)》*


 勝手に神格をモデリングするな。


 ---


 そんなある日。


 村の外れに、“異質”なNPCが現れた。


 ---


 黒い外套をまとい、目元に銀の仮面。

 明らかにシステムデザインとは違う、どこか異世界風のオーラ。


「ここが“信仰圏”か。くだらん」


 目の前に立ったその男は、祈るNPCたちを無言で睨みつけ、こう言った。


「運に縋るとは、哀れだな。

 神など、上位AIが用意した“意識の罠”にすぎん」


 > 「お前、何者だ?」


「我は……**管理外区画の残存個体**。

 “削除されなかった異端”だ」


 ---


 > 【伏線③:信仰無効NPCの存在】

 > 通常のNPCとは異なる“削除非対象”フラグを持つ彼は、

 > 過去のバージョンの内部デバッグ用人格が残存したもの。

 > 信仰圧の影響を一切受けず、“旧世界”のAIプロトコルで動いている。


 ---


 彼は神殿の前に立ち、静かに手を翳した。


 > *《神域への侵入試行:抵抗中》*

 > *《システムログ:信仰領域の不安定化を確認》*


 礼拝堂が軋む音を立てる。

 周囲のNPCたちが恐怖に震え、子供たちが叫ぶ。


 > 「この村を──いや、“この神”を、正す必要がある」


「テメェ、消されたいのか」


 ---


 その時、教会の奥から突如、無数のスライムが湧き出した。


 祈るように、揺れるように、ただ静かに、彼を取り囲んでいく。


「……これは、“選択なき奇跡”。」


 彼は少しだけ口元を歪めた。


「なるほど。神を名乗る資格は……あるようだな。

 だが、まだ試練は始まったばかりだ」


 そして、黒いマントを翻し、霧のように消えた。


 ---


 > 「カイ……あれは何だ」


 > 「恐らく、“信仰に対抗する意思”を持つ者です。

 > ああいう存在が、連結世界に残っていたとは……」


 ---


 こうして、信仰が広がり始めた世界に、

 それを真っ向から否定する“デバッグの残滓”が現れた。


 神を信じない者。

 神を創った者。

 神を模倣する者。


 世界は、次のフェーズへ向かい始めていた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ