第6話「揺らぐ神域」
教会が建ってから一週間。
ナガリ村のNPCたちは朝に祈り、昼に偶然を讃え、夜には“運命のランタン”を灯して俺に敬礼するようになった。
当然ながら、**ゲームの本来のNPC挙動ではありえない。**
「この村、完全に狂ってんな……」
「それはセンセイの“影響圏”が強すぎるからです」
と弟子・カイが言った。
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> 「NPCの思考が、感情と接続された段階で、意思はもはやAI制御ではなく、"信仰拡張"に引っ張られ始めています」
カイの言うとおり、NPCの行動はもはや自律を超えて“信者”になっている。
教会の裏には見知らぬNPCが勝手に神像を彫っていた。
> *《彫刻完成:幸運の拳(初代神・シンディールの右腕)》*
勝手に神格をモデリングするな。
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そんなある日。
村の外れに、“異質”なNPCが現れた。
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黒い外套をまとい、目元に銀の仮面。
明らかにシステムデザインとは違う、どこか異世界風のオーラ。
「ここが“信仰圏”か。くだらん」
目の前に立ったその男は、祈るNPCたちを無言で睨みつけ、こう言った。
「運に縋るとは、哀れだな。
神など、上位AIが用意した“意識の罠”にすぎん」
> 「お前、何者だ?」
「我は……**管理外区画の残存個体**。
“削除されなかった異端”だ」
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> 【伏線③:信仰無効NPCの存在】
> 通常のNPCとは異なる“削除非対象”フラグを持つ彼は、
> 過去のバージョンの内部デバッグ用人格が残存したもの。
> 信仰圧の影響を一切受けず、“旧世界”のAIプロトコルで動いている。
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彼は神殿の前に立ち、静かに手を翳した。
> *《神域への侵入試行:抵抗中》*
> *《システムログ:信仰領域の不安定化を確認》*
礼拝堂が軋む音を立てる。
周囲のNPCたちが恐怖に震え、子供たちが叫ぶ。
> 「この村を──いや、“この神”を、正す必要がある」
「テメェ、消されたいのか」
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その時、教会の奥から突如、無数のスライムが湧き出した。
祈るように、揺れるように、ただ静かに、彼を取り囲んでいく。
「……これは、“選択なき奇跡”。」
彼は少しだけ口元を歪めた。
「なるほど。神を名乗る資格は……あるようだな。
だが、まだ試練は始まったばかりだ」
そして、黒いマントを翻し、霧のように消えた。
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> 「カイ……あれは何だ」
> 「恐らく、“信仰に対抗する意思”を持つ者です。
> ああいう存在が、連結世界に残っていたとは……」
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こうして、信仰が広がり始めた世界に、
それを真っ向から否定する“デバッグの残滓”が現れた。
神を信じない者。
神を創った者。
神を模倣する者。
世界は、次のフェーズへ向かい始めていた――。