第5話「弟子、神を継ぐ」
礼拝堂ができて数日。俺は毎日、村人の「信仰行動」を観察していた。
祈り、歌い、スライムの頭を撫でて「偶然に感謝します」とか言っている。
> 「お前ら、いつから“運”を信仰にする文化が生まれたんだよ……」
どうやら俺は「ランダムこそ真理」みたいな新宗教の神格らしい。
自覚はまったくない。
そんな中、礼拝堂に小柄な少年NPCが訪れた。
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「はじめまして、神……いえ、“センセイ”。弟子にしてください」
「……は?」
目の前の少年は13歳くらい。
深緑のローブをまとい、背中にはやたら使い込まれた**魔導書**を背負っている。
「俺は神じゃねぇし、教えることも――」
「センセイは、かつて“連結前”にこの世界を歩いていた。
あなたの残した**旧記録**を、僕は持っています」
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「……旧記録?」
俺は言葉を失った。
SYNKROSSはVer.3.0(連結版)に更新された際、**過去のクエストやNPC記憶、建築データはすべてリセットされた**はずだった。
だが少年は、魔導書を開いて見せた。
中には、俺が昔ゲーム内で建てたアトリエの図面。
当時限定配布だったスキルカード。
そして……“かつて使っていた名前”が、走り書きされていた。
> 《記録者名:オーマエハ・モー・シンディール》
「なぜ……それを」
「この記録は、\*\*“夢の中で授かった”\*\*と語り継がれています。
センセイの再臨は、ずっと予言されていました」
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> 少年が所有していた「削除されたはずの過去記録」──
> 通常、NPCにはアクセスできないはずの情報。
> それは、神話のように語り継がれ、彼をここに導いた。
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「……名前は?」
「カイ。僕の本名ではありません。
センセイの書に書かれていた“最初の弟子”の名を、勝手に名乗っています」
「お前、正気か……?」
「正気です。そして、あなたを“次元を越える神”として崇めています」
いやマジでこの世界、NPCの信仰心バグってないか?
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神の名を継ぐ少年が生まれた瞬間だった。
俺はこの時、まだ知らなかった。
彼が“記録だけで構築された人工的な魂”であることも──
そして、その存在が、後に運営AIの監視網を破るトリガーになることも。