第27話 D&D&D: Demon & Depths & Death
地鳴りが、大地の底から響いた。
地龍型のワーム――《アルケウス・ワーム》が咆哮しながら、地下深くへと体をうねらせて掘り進めていく。錬金術で創り上げられたこの巨大生物は、全長百メートルを超える人工龍。シンディールの手によって“縦穴掘削用生命体”として設計され、今まさに地層を貫通していた。
「まずは三十階層まで垂直掘削。それが済めば……次だ」
その後方では、ゴレムスを筆頭としたゴーレム部隊が次々と下層を整地していく。階段、通路、天井補強、空間拡張。無駄がなく、正確で、疲れを知らない。
そして――三十階層地点に達したとき、シンディールは深部の岩盤に向かって黒い結晶をそっと置いた。
「ここが、“起点”だ」
《ダンジョンコア》――これは、迷宮を自己拡張させる魔術機構であり、異世界の一部を取り込みながら、独自の生態系を築く“心臓”だ。さらにその二十階層下、計五十階層の地底に、第二コアを仮設し、迷宮の深淵に繋がる基礎構造が整えられていく。
コアが動き出せば、自動で部屋や罠、枝分かれする通路が形成される。だが――
「入口と動線は、こちらで作る。それが“デザイン”ってものだろう」
あえて自力で作業を行うのは、他のリソースを運用可能にするため。そして完成後には、ダンジョンの自然発生機能により、モンスターが無尽蔵に湧く構造となる。
ベルゼバブは三十階層に“配置”された。毎夜、魔力がゼロになるまで垂れ流され、その影響により《レッサーデーモン》《シャドウインプ》《マグマブラッド》といった自我を持たない下級悪魔たちが迷宮内に発生する。
「立地もいい。リスボン拠点との中間地点――これは冒険者が寄るしかないだろうな」
そして整備が完了すれば、ゴレムスは畑へ帰還。収穫担当へと戻される。だが、ほかのゴーレムたちはモンスター扱いとして迷宮に常駐させ、罠の番人や戦力の中核とする。
しかも今では――
「余剰資材からゴーレムを増産できるようにしてある。削岩で出た岩や金属を使って、階層ごとに最適な奴を作らせればいい」
シンディールの設計により、材料を吸収することでゴーレムが自己増殖できる仕様が実装されていた。これにより建設速度は倍増し、整備の完了も近い。
その背後では、アルケウス・ワームが鳴き声一つ上げると、土砂と鉱石を吐き出しながら、新たな縦穴を形成していた。
準備は整ってきた。
やがて、冒険者たちが自ら足を踏み入れる、“絶対死守型”の迷宮。
それは、合理性と狂気、管理と放任の果てに生まれた、真なる魔王の遊技場。
シンディールは、少しだけ笑った。
「――終わったら、遊びに行くとしよう。……誰かが壊さないうちに、な」




