第24話:ベルゼバブ、地に降りて
戦場は多層的に動いていた。
各地で戦闘が同時多発する中、全てが一つの流れに収束していく。
シンディール領では、マンドラゴラ変異種が自然に戦線に組み込まれ、
悪魔たち、魔植物たちと完全な連携体制を築いていた。
指示は必要ない。
魔力による指揮網が領域内全体に張り巡らされ、反応速度は人間のそれを凌駕していた。
■錬金術環境の暴走
戦域全体に展開された錬金魔法が、本来の意味で“汚染”を超えていた。
麻痺
睡眠
猛毒
石化
幻覚
神経干渉
各種ステータス異常
これらが環境そのものとして存在する。
プレイヤーにとっては害でしかないそれが、シンディール陣営には滋養であり加速剤だった。
「無害であるとは言っていない。……ただ、私たちは“耐える必要がない”だけだ」
シンディールの呟きが、どこか不快な静けさの中に落ちる。
■ベルゼバブ、人型に変化
突如、天上の渦が凝縮し、ベルゼバブが人型となって地上へ降りる。
その姿に戸惑う間もなく、プレイヤー軍は「好機」と判断し、即座に総攻撃を開始。
だが――
それは、「対話」というよりも、
無秩序な焦燥と衝動のぶつけ合いでしかなかった。
■プレイヤー軍の瓦解
次々と、強者たちが崩れる。
高ランク帯の魔術師や戦士が、状態異常の連鎖でまともに行動できず、回復も届かない。
凍結の後に石化
睡眠のまま猛毒に包まれ
幻覚の中で味方を攻撃し
精神崩壊でログアウト強制
そして、主戦力と目されていた複数名の高位プレイヤーが同時に脱落した瞬間――
■ネックレスが発動する
シンディールの胸元にぶら下がっていた、あの自動回収型ネックレスが脈動するように微かに光を放つ。
特に意識することなく、周囲の空間が吸い込まれていく。
落ちた装備品
散乱した素材
珍しいドロップ品
戦闘中に割れた魔具の欠片
これらがすべて、自動的にネックレスに回収されていく。
何かが貯まり、何かが進化している。
だが、その全容を知る者はこの場にいない。
「レベル167……か。なるほど、まだ上がる余地があるな」
誰に言うでもないその言葉に、答える者はいない。
ただ戦場に漂う、死と変質の気配だけが、確かに“こちら側”の勝利を告げていた。




