表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/36

第21話「対話不能悪魔との再会と、静かなる戦端準備」

 辺り一帯に広がる死の気配。

 空は腐り、草は枯れ、石すら呻くような重圧が満ちる。

 空に現れた巨大な影――ベルゼバブはまだ完全に動いていなかった。


「……やっぱり来やがったか。何年ぶりだ?」


 シンディールは畑にしゃがみ込んだまま、古い記憶にアクセスする。


 回想:異世界時代のベルゼバブ使役録

 かつて、己の研究のために召喚した上位悪魔。

 理性、秩序、忠誠――そのすべてを持たず、ただひたすら「力」そのものを振るう存在。

 ベルゼバブは召喚者さえ容赦なく巻き込む悪魔だった。


 ・範囲攻撃→召喚者除外機能「わざと未設定」

 ・敵味方の区別→「魔力の反応が強い方を潰す」思考

 ・命令違反→日常

 ・会話→成立しない。ただし状況判断能力は高い


 それでも使役できた理由はひとつ。

「彼を縛る契約魔法が、偶然にも完璧に噛み合っていた」からだ。


「今の俺、レベル30。召喚の制御枠すらギリギリ。あれとやり合うなら――」


 シンディールは懐から1枚の巻物を取り出した。

 その紋章は、かつて異世界で血と魂を代価に刻んだもの。


「……メフィスト。もう一人の災厄だな」


 ベルゼバブの天敵。冷徹で、戦術的で、目的志向な大悪魔。

 かつて彼らを同時召喚して大乱戦を引き起こし、転生のきっかけとなった。


 しかし今回は、下手に動けばその再来。


「三つ巴は避けたい。だから、まずは確認だ」


 ベルゼバブとの“接触”

 空に浮かぶ魔神の気配が、少しだけ変わった。


 それは、魔力の探査と反応。

 呼ばれた者の気配を確認するように、ほんの一瞬だが目のようなものが、シンディールの方を向く。


 その圧だけで、草が蒸発し、近くのゾンビが塵になる。


「……ああ、お前か。俺を呼んだのは」


 ベルゼバブがそう“認識”した感触がある。


 だが、それ以上の意思疎通は不可能。

 会話スキルは一切効かない。


 ただ、“敵”とはまだ判断されていない。


「やっぱり、何かを探してるな……」


 ベルゼバブは一歩も動かない。

 攻撃もしてこないが、魔力だけは膨張している。

 何かを“探している”……その気配があった。


「目的が分かれば、こちらから接触の余地がある」


「ただし、敵意を出せばこの地は壊される。俺の畑も、工房も、全部な」


 そして、ログに一つの通知が入る。


【ワールドレイドボス『ベルゼバブ』:非攻撃状態継続中】

【時間経過で“腐蝕拡散”開始まで残り1時間】

【プレイヤー間敵対:継続】

【発生源プレイヤー『SINDIR_3』の行動により、進行が変化します】

「1時間以内に、奴の目的を突き止める。

 それが無理なら――メフィスト、出てきてもらうぞ」


 静かに、だが確実に、

 世界最悪の火種は再び動き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ