第11話「バッファリン・オブ・ゴッド」
「……完成したぞ、カイ」
「まさか本当に、“あの素材”で薬を作るなんて……」
礼拝堂地下、錬金室。
鉄とガラスの装置がリズムを刻み、霧のような魔素が円を描く。
中央に置かれた試験管は、虹色の光をたたえた液体を揺らめかせていた。
■ 錬金成果:《バッファリン・オブ・ゴッド》
効果時間:3時間
【全ステータス ×3倍】(STR / INT / VIT / AGI / LUC / MND)
【HP・MP 全回復】【状態異常完全解除】【スタミナ回復】
【副作用なし】(※錬金ランクS以上、使役マンドラゴラ調合時限定)
製法:ユニーク個体「マンドリンβ」の根+賢者の石の蒸留素+信仰エネルギー凝縮液
「飲むぞ」
俺はためらいなく、それを一気に飲み干した。
体が熱くなる感覚はない。
ただ──空気が止まり、すべての時間が自分の中に取り込まれた感覚。
【効果発動:神格統合式バフ】
【全ステータス ×3】
【神性補正:教会領内で追加回復効果 +200%】
「……これ、ヤバいぞカイ。
ゲームバランスが泣いて謝る」
そのまま数本を量産し、少量だけゲーム内オークションに出品。
品名はあえてふざけたようにした:
《【バフ付きバッファリン】試作品 No.1》
開始価格:1G
終了価格:……820,000G
落札者コメント:「これ、運営案件では?」
世界は即座にざわついた。
「教会由来の禁忌薬」
「神から授かったエリクサー」
「運営によるテスト品か?」
など、憶測が交錯する中――
“伝説のプレイヤー『モー・シンディール』の再来”
という噂だけが独り歩きし始めていた。
「センセイ、これ……下手すると狙われますよ」
「下手しなくても、狙われるさ。
でもな……」
「噂になるってことは、“信仰がデータを越えた”ってことだ」
カイが苦笑する。
「“神性を売る”って表現……たぶん、史上初ですね」
こうして、ひとつの畑から生まれた奇跡の薬は
全プレイヤーの希望と、混乱の火種となって広がっていった。