第10話「畑は世界を救うかもしれない」
「……耕すか」
「突然ですね、センセイ」
礼拝堂の裏手。
俺は空き地に指で陣を刻みながら、魔力を流し込んでいく。
「昔の俺は、錬金術素材を街で買ってた。でもこっちじゃ金も信用もまだ足りねえ」
「だったら、作るしかない」
魔法陣が完成すると、土がぶくぶくと沸き立ち、畝が自動で整う。
完全自動調整式、旧世界式の**“錬成対応型農地陣”**だ。
「この土地……魔力の流れ、良すぎるくらいですね」
「ああ。教会の祈りが集中してる場所だ。だから――」
「マンドラゴラも、ここなら育つ」
■ マンドラゴラ栽培システム(SYNKROSS ver. 3.14)
【特徴①】抜くと「悲鳴」ではなく、経験値の波動を周囲に放出
【特徴②】栽培レベルによって収穫時の副作用を低減
【特徴③】稀に**「ユニーク個体」**が生え、精神的刷り込みが可能(=“使役化”)
初回の収穫は成功だった。
土から生えた小ぶりのマンドラゴラが、
「ヒィエ……」とかわいらしい声を上げながらぴょこんと飛び出した。
【経験値 +15】
【農業スキル +0.2】
【マンドラゴラの根(小)×1 入手】
「なるほど。悲鳴じゃなくて経験値型の音波か。
静かに育てて、無理なく抜けば問題ないな」
翌週、7体目のマンドラゴラが生えた時のことだった。
「センセイ……それ、ちょっと、変じゃないですか?」
確かに。
他の個体より頭が大きく、葉の色が金に近い。
引き抜くと、ものすごい叫びと共に、周囲にドーム状の幸運フィールドが発生。
【ユニーク個体「マンドリンβ」発見!】
【LUC補正領域:+25% / 半径30m / 効果時間:6時間】
【刷り込み判定中……成功】
⇒ あなたは「マンドリンβ」を使役可能になりました。
「マンドリン……? 喋れたりするか?」
「ベヒー……(にやり)」
「おい、笑ったな今」
こうして、礼拝堂の裏手には
**“使役マンドラゴラを従えた錬金畑”**が正式に稼働した。
祈り、信仰、戦闘、そして栽培。
あらゆるものが混ざり合うこの世界で、
俺たちの拠点は静かに、だが確実に拡張されていく。