好きな女子の本命チョコのお返しに間違ってゴミを渡してしまった俺の末路
⭐︎本作品は以前投稿した短編『好きな女子の本命チョコを潰した俺の末路』の続編です。
『好きな女子の本命チョコを潰した俺の末路』をまだ読んでない方は事前に読んで頂くことをおすすめいたします(๑>◡<๑)
2025年3月13日 神経水弱
『こんなゴミ!!...よく渡そうと思えたね..........もう私たち、終わりだね』
涙を溢しながら激昂する彼女。俺は膝を地に着け、まるで命を乞うかのようにして、必死に弁解する。
しかし彼女はそんな俺を軽蔑し、汚物を見るような冷たい視線だけを残し、俺に背を向ける。
『正直さ、もうあなたを彼氏だなんて思えない』
『待ってくれ!もう一度チャンスを』
『は?無理なんですけど』
『お願いだ!捨てないでくれ!』
『サヨウナラ』
俺は走り去って行く彼女の背中を目で追いながら、無様に阿鼻叫喚するしかなかった...
「なんて最悪な夢だ」
そんな悪夢にうなされたのは今日が3月14日だからだ。3学期最後の登校日にして、俺の明暗を分つ日。
そう....
『ホワイトデー』である。
1か月前のバレンタインデーに起きたちょっとした事件をきっかけに、俺は同じクラスで、高嶺の花の美少女 渡千夜と奇跡的に付き合うことになった。
渡さんは学内では有名人で、あらゆる男子が彼女と付き合うことを夢見ている。
そう...俺みたいなカースト下位のモブ男は必死こいてでも彼女に尽くさなければ、最も簡単に捨てられるに違いない......
とは俺の勝手な思い込みなのかもしれない。
いや、だからこそ俺は彼女に見切りをつけられないように、利用価値くらいはあるんだというところを証明しなければならないんだと思う。
今日のホワイトデーも例外ではない。何としても、必ず成功させなければならない。
そんなことばかりが頭の中を駆け巡るせいか腹が痛い。それくらい、ここ最近はずっと気が張っている。
もちろん、やるだけのことはやったはずだ。
今日のために計画から買い出し、完成まで延べ1か月は費やしただろう。試行錯誤を重ねて、なんとか彼女に渡せるくらいのレベルのものは作った。
梱包も完璧だし、準備万端で今日を迎えた。それなのになぜか、まだ緊張していて、俺は無意識にホワイトデーで渡す2つのビスケットバッグが入った紙袋を思わず握りしめていた。
「あ、いかんいかん」
せっかくの努力と時間を無駄にするところだった。
抱えて持ち運ぶのを止めて、紙袋の手提げ部分に持ち変える。そして一旦、自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をしてみることにした。
それでも後からじわじわと緊張感が自分を支配していくように包み込んでいく。
「緊張やべぇ。.......はぁ」
ため息を吐いていると、突然背後から徐々に近づいてくる足音と共に、聞き飽きた煩い声が聞こえた。
「おっはよー!」
背中を叩かれて振り向くと案の定、馴染みの顔があった。茶色がかった黒髪のミディアムヘア、そして切れ長の二重で整った顔立ち。間違いなく幼馴染の末好鹿子だ。
ほくそ笑む彼女は、相変わらず今日も憎たらしい。
「お前は...普通に声をかけられんのかね。鹿子さんよ」
「好きでしょ?こういうの」
「好きじゃねぇ!てかいい加減さ、節度というのを学んだ方がいいのでは?」
「は?絶賛男子からの人気上昇中の可愛い幼馴染からのスキンシップに対する言葉がそれ?」
「自分で言うな。恥ずかしい」
「そんな皮肉めいたことしか言えないから、今だに彼女ができないんだよ」
「ふっ、言っとくが俺だって生憎っ」
俺は危うく出そうになった言葉を飲み込む。
『生憎、彼女くらいいるさ』
なんて、言えるわけがない。
渡さんと付き合っていることは鹿子を含め、周囲に内緒にしている。それは渡さんとの身分に差を感じ、未だに彼氏だと胸を張れないでいる俺に原因がある。
周囲にバレた時に、それを指摘されて自分が傷つくのが怖い。俺はそんな自分が、今この瞬間も嫌いで堪らないのだ。
そういう事情があることを知る由もなく、言いかけた台詞の続きを引き出そうとニヤけながら俺の頬を指で何度も悪戯気に突いてくる。
「『ふっ、生憎...』なんでちゅかぁぁぁ?まぁぁちゅくぅぅん」
「うざい!てか突くな!」
「くく、そうだよねそうだよね。強がる理由なんてないもんね。まちゅくんに構ってくれる女子なんて、私くらいだもんね」
「うるさい。ほっとけよ」
俺は鹿子の手を払い退け、彼女を置いて歩き出す。
鹿子は俺の肩をポンポンと叩きながら、いつものように俺を嘲笑うかのように高笑いをする。彼女の笑い声はまるでセミの鳴き声のように騒々しく、煩わしい。
俺は苛立ちをなんとか抑えつつも、彼女の笑い声を背に前進し続けた。
すると彼女は急に高笑いを止め、何かを思い出したかのように口を開いた。
「あ、そういえばぁ、今日ってホワイトデーだね!」
「そうだな」
「私さ、あげたよね? バレンタインのチョコ」
「あぁ、あの既に溶けていた無様なチョコか。あれをバレンタインのチョコとカウントするのはどうかと思うが」
「その無様なチョコをありがたく受け取っていたのはどこの誰かなぁ?」
「愚問だな。記憶が間違っていなければ俺は一度手放そうとしたのだがな」
「でもその後、ちゃんと受け取っていたじゃん!」
「仕方なく...な!」
俺が皮肉たっぷりに言うと、鹿子は一瞬ムッとしたような表情を見せたが、すぐにまたほくそ笑み、俺の手元の紙袋を指差した。
「それ!私へのホワイトデーのお返しでしょ? 早くよこしなさいよ」
「ちっ……昔からそういうところだけは気づくの早いよな」
俺は舌打ちをしながら、渡さんの分もあることが悟られないように何となく膨らんでいるほうを取り出し、鹿子にヒョイと投げ渡した。
「ほらよ」
それを受け取ると、彼女は立ち止まって受け取ったものをじっと見つめる。もちろんさっきまでの笑顔はなく、無表情になる彼女。俺には間抜けずらにすら見えて、痛快だった。
ま、そりゃそうだ。
失敗作を入るだけ詰めてパンパンに膨らんだ茶色のビスケットバッグに、余っていた茶色のリボンを付けただけの愚作。茶色一色で形も歪でまるでゴミのようだ。
ま、投桃報李ってやつだな。
俺はニヒル顔で彼女の先を歩き続ける。とはいえ、捨てられるのは癪なので回収しておくことにした。
「いらないなら返せ。別に無理に受け取ってくれとは言わん」
「いや、そうじゃなくてさ。これ.........松にしては力入ってんじゃん!」
「は?」
「え...やば、なんかめっちゃ嬉しい」
なぜだ...why?こいつ、なんでこんなゴミもらってこんな喜んでんだ?
大層喜ぶ彼女に拍子抜けしていると、彼女は小走りで俺の目の前に立ちはだかる。
「なんだよ」
「......」
俺の問いかけに無言のまま、彼女は頬を染め、何かを言いたげにしているが、俺から目線を逸らしている。
いつもの彼女らしからぬ態度に歯痒さを覚えて、俺は居た堪れず口を開く。
「なんか言えよ。急に黙んなって」
すると彼女はハッとした顔をして、頬を赤く染めたまましばらく俺を見つめた後、誤魔化すようにその場凌ぎの作り笑いを見せる。
「なんかさぁ.....勘違いしちゃうじゃん?.....松も私のこと......好きなのかなぁって」
「は?!ふ...ふふふ.....ふざけんな!冗談じゃねぇよ!」
「あーれれー、もしかして照れちゃって~?」
「照れてねぇから! つーか、もらうものもらったんなら、揶揄ってないでさっさと行けよ!」
突拍子なことを言われ、困惑しつつも俺が手で追い払うようにすると、鹿子は笑いながら後ろ手を振り、そのまま駅のほうへ走って行った。
そんな彼女の背中が遠ざかるのを見送りながら、俺は軽く息を吐く。
「......ったく、朝から心臓に悪いんだよ」
一瞬垣間見えた、彼女らしからぬ表情と『好き』という単語に不本意ながらも俺の鼓動は高鳴ってしまった。
後味が悪い結果になったが、まぁこれで義理チョコの借りはきっちり返せた...はずだ。
高校の最寄り駅に着き、改札を抜けた瞬間だった。俺の袖を誰かが力強く引っ張るように掴んだ。
「ひい!!!」
思わず情けない声を出してしまった。
全くこんなところ渡さんに見られたらどう責任とってくれるんだ.......
「って、渡さん?!」
「......お願い。とりあえずついてきて」
サラサラとした黒髪のセミロングのストレートヘア、そして丸目の大きなぱっちり二重と小さなお鼻.....
一際目立つ美少女に、周りから視線が集まる。
居た堪れなくなったのか、渡さんは何も言わず袖を掴んだまま走り出す。
「ちょ、待って、どこ行くの?」
「いいから、ついてきて!」
渡さんはそれ以上何も言わず、表情を見せず、俺を引いてただ前だけを向いて走る。
そんな彼女の後ろ姿からはふわりと甘いシャンプーの香りが漂い、俺は天に召されるように意識が朦朧とするような感覚に陥っていた。
ま、彼氏だから。別に悪いことじゃない。
そんなことを自分に言い聞かせ、しっかり堪能していた。
しばらくして通学路から外れた住宅地の小道で渡さんは足を止めた。
軽く肩で息をしながら呼吸を整えると、渡さんはほんのり赤く染まった右頬に垂れた髪を耳にかける。
そんな彼女の何気ない仕草に、俺の視線は無意識のうちに吸い寄せられていた。
渡さんは俺の視線をくすぐったく感じたのか、頬を赤くして目線を逸らす。そして甘い声で気恥ずかしそうに口を開いた。
「今日はね、どうしても一緒にいたかったの。大事な1か月記念...だから」
「あぁ...1か月記念かぁ」
「早いよね。もう1か月だもんね」
「そうだね...って、ん?...1か月きね...ん?....ん?」
「ん?」
大切な1か月記念をさぞ忘れたかのようなリアクションをする俺を見て、彼女は影のついた笑顔のまま首を傾ける。
正直に言おう
バッチリ忘れていた。
いや、これは1か月記念とホワイトデーが重なっているのが悪くてって......それどころじゃない!...どうしよう...1か月記念だぞ!アニバーサリーな日にビスケットをプレゼントなんてチープすぎるだろぉ!あぁぁぁぁ、なんか手はないのか!手はぁぁぁぁ!!
.......と脳内で慌てふためき、挙動不審になる俺を見て、渡さんは察したのか、「はー」とため息を一つ吐いて、頬をぷくっと膨らませる。
「本明くん忘れてたでしょ?」
その通りである
「い、いや! 忘れてなくて! そんなことはなくて!」
「忘れてたんだ...ひどい...私ずっとずっと...」
渡さんはグスンと小さくすすり泣く声を漏らし、袖で目元を拭う。
そんな彼女の姿を目の当たりにしてさらにあたふたする俺を、渡さんはクスクスと悪戯気に笑う。
「ふふっ、本明くん!冗談だよ」
「え?....がち?」
「がち」
「怒ってない?」
「んー......ちょっとだけ」
「やっぱり...怒ってますよねぇ...」
「....うっそー!本明くん、間に受けすぎ!」
「え?....がち?」
「がち」
彼女は終始笑顔で話す。
それでもやはり心のどこかで、彼女は俺に怒っているのではないかと疑心暗鬼になっていた。
いや、1か月記念だのホワイトデーだの関係ない。
俺は今日のために、なにより彼女のためにこの1か月、確かに努力したんだ。
そのことに変わりはない!
俺は意を決して口を開く。
「あのさ!...今日....その...渡したいものがあって...」
「渡したいもの?」
「1か月記念のじゃなくて...その......バレンタインデーのチョコのお返し」
少し考え込む渡さんはすぐに思い出し、「あっ!」と声を上げた。
「そっか!今日はホワイトデーでもあったね!」
「そう...だから」
「でも私のあげたチョコ、潰れちゃってたし.....お返しなんて悪いよ」
「ち、ちがくて!」
思わず声を張ってしまった俺に、渡さんは驚いたように目を瞬かせる。
「えっと...その.....」
俺は照れくさそうに頬をかきながら、紙袋の中からビスケットバッグを取り出した。
「とにかくこれ......」
「ビスケット...これ、本明くんが?」
「……あぁ。昨日作った。初めてだけど...」
緊張のあまり視線を逸らしながらも、彼女のリアクションが気になる俺は、横目で見る彼女の表情を伺うことにした。
渡さんは驚いた表情のまま、手のひらに乗せたビスケットバッグをじっと見つめて、そのまま立ち尽くしていた。
頼むなんとか言ってくれぇぇぇぇ!!
沈黙が続くにつれて、心臓の鼓動がさらに高鳴っていく。
そんな中、俺はふとビスケットバッグに視線を移した。
……ん? 何か違和感……?
よく見れば、ビスケットバッグはかなりパンパンに膨らんでいて、表面の凹凸が激しい。
……まさか!?
慌ててリボンの色を見る。
茶色だ。
鹿子に渡したはずの義理用の失敗ビスケット。通称ゴミが渡さんの手のひらに乗っていた。
「待っーー」
取り返そうとするが、時すでに遅し。渡さんはバッグを開け、中のビスケットを一枚取り出していた。そのビスケットは見るからに形が歪で焦げている。
……終わった。
「こ...これは....」
弁解をしようとした瞬間、渡さんはビスケットバッグをぎゅっと握りしめた。
「渡さん?」
次の瞬間ーー
渡さんはポロポロと涙をこぼし、俺を置いて走り去ってしまった。
「わ、渡さん!!」
呼び止めようとするも、渡さんは俺の声を無視してそのまま走り去っていく。俺はただ彼女の背中を目で追うだけで、立ち尽くすしかなかった。
「なんだこれは......なんだ...なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
阿鼻叫喚する俺。
どうやら、今朝見た悪夢は正夢だったようだ。
なんて結末で終わらせたくない。
その一心で俺は朝の失態を取り戻そうと、今日1日何度も弁解の機会を伺った。......が、相変わらずヘタレの俺はまったくタイミングが掴めず、気がつけば終業のホームルームになっていた。
俺は、机に突っ伏して深いため息をついた。
いや、まだだ!
まだ今日は終わっていない!
ホームルームが終わると同時に、意を決して渡さんに話しかけようと、号令と共に渡さんの方へと向かう。
「あ...あの...渡さっ」
俺が声をかけるよりも早く、渡さんは何も言わずに颯爽と教室を出て行ってしまった。
その瞬間、確信した。
あ、オワタ。
顔色を真っ青にして、俺は静かに肩を落としながら教室を出る。
ここで一句...
『憧れの 彼女との恋路は これにて完』
詰んだオワコン男子の心の俳句。
こんなオワコン男子を渡さんが待っているわけもなく、校舎の廊下をとぼとぼと歩く。
校舎を出て校門へ向かうも、足取りは重く、まるでゾンビのように漂っていた。
あぁぁぁ……俺の馬鹿ぁぁぁ……!!!
頭を掻きむしりながら今朝の失態を悔やむ。
なんで俺は、あんなミスを……! よりによって義理用のビスケットを...あんなゴミを渡すとか……
なんて後悔しても、後の祭りだ。もうバレンタインデーのような奇跡は起こらないだろう。
どんよりとした黒いオーラを纏いながらズルズルと校門をくぐろうとした瞬間だった。
「えっ?」
突然、横から誰かに手を掴まれ、驚いて振り向く。
「わ、渡さん!?」
気のせいか彼女の目には涙が浮かんでいた。
そんな彼女はすぐさま後ろを振り向き、俺の手を強く引き走り出す。
「来て……!」
「え、ちょ、どこに?」
抵抗する間もなく、俺は彼女に引っ張られる。しばらくして、立ち止まった場所は朝の小道だった。足を止め、朝よりも全力疾走した俺と渡さんは息を切らしていた。
お互い呼吸を整えたくらいで渡さんはようやく俺の方を振り向いてくれた。なのに顔を合わせてくれない。
だけど俯いた彼女の頬に涙が次々と辿っているのはわかった。
あぁ、なるほど...。
これ、絶対振られる流れだ……。
もうちょっとだけ...彼氏で居たかったなぁ...。
俺、頑張ったんだぜ?
あぁ、俺の青春ーー終わっちゃった...
現実を受け入れたくない反動か、意識がだんだん薄れていく...
そんな中、突然身体に衝撃が走る。
「渡さん?!え?!え?!」
渡さんは俺を力強く抱きしめた。
予想していた光景とは真逆の光景が広がっていることに俺は酷く戸惑う。
素直に彼女を受け入れて良いものか困惑してフリーズしている俺にようやく彼女は目線を合わせ、笑顔を見せてくれた。
「本明くん……ありがとう」
「え、えっと……ありがとう、って……?」
「ビスケットだよ...ホワイトデーの。全部食べた」
「……え?……食べたの!?」
慌てふためき、オロオロしている俺を見て、渡さんは可笑しそうにクスクスと笑う。
「お腹壊してない? 吐き気は? 熱は?」
「どうもないよ?」
「ほんとか!? あんなお粗末な物食べたら、渡さんの人生を終わらせる可能性だって」
「そんな大げさな……」
彼女は笑いながら、俺を落ち着かせるためか、右頬に優しくそっと手を添えた。二度と感じることができないと思っていた彼女の温もりが俺の心を静めていく。
「私のために作ってくれたんでしょ?」
「善処はした。けど、こんなはずじゃなくて……その……」
「すごく...嬉しかったの...こういうの初めてだったから」
「……でも.... 朝、泣いてたじゃん」
「あ、あれは……涙見せたくなくてさ……だって、恥ずかしいじゃん」
渡さんは目を逸らし、頬を赤くする。
なんだ、また俺の勝手な思い過ごしだったのか……。
その瞬間、俺の中の緊張感が一気に解けた。まるで自分を縛っていた糸がプツンと切れたかのように、俺はその場で崩れ落ちた。
「うわぁぁぁ……!」
「ちょ、本明くん!? 大丈夫!?」
俺は膝をつき、項垂れる。
惨めで格好悪くて情け無い。
けど彼女なら受け入れてくれる気がした。
今まで押し殺してきた気持ちが、涙と共に溢れ出す。
「俺、怖かった」
「ごめんね」
「渡さんに捨てられたくない。だから、もっともっと……頑張らなきゃなのに……」
俺が震える声で呟くと、渡さんは優しく俺の頬を両手で包み込んだ。
「それ、こっちのセリフだよ」
「え……?」
「本明くん、私と付き合ってることは周りに隠して欲しいって言うし、付き合っても名字呼びだし...やっぱ嫌われてるのかと思った」
「いや、それは……俺が渡さんと身分が釣り合わなくて……俺なんかが渡さんと付き合ってると周知されたら迷惑を被るのは渡さんで訳であって……」
突然、視界に彼女が大きく映り、共に唇と唇が重なる。柔らかくて温かくて甘い。
「……ここまでして、気づいてくれなきゃ、ほんと鈍感だからね?」
俺は目を見開いたまま固まる。そんな俺を見た彼女はついに顔を真っ赤にしてスッと視線を逸らす。
「ありがとう....ち、千夜」
照れ隠しのためだったけど、俺は本心に従うように満面の笑顔を彼女に向ける。
すると彼女も満面の笑みを浮かべ、瞳にキラキラと涙を輝かせていた。
「こちらこそありがとうね、松くん」
その日、俺たちはようやくお互いを名前で呼んだ。
対等に愛し合う恋人にーー
本当の恋人にーー
俺たちはようやくなれた。
まだまだ未熟者で勉強中ですので、おかしい点や不明な点、また誤植、誤字、脱字があればぜひ教えてください!
あ、友達のように気軽に教えてくださいね!
もし仮に、上記に当てはまらず、純粋に良かったと思っていただいた場合はお星様★★★★★をお願いします。
めっちゃ喜びます(๑˃̵ᴗ˂̵)