シラネ登場
「……で、その二人が今キースの下に居るのか?」
ジョナサンは聞いた。
「そうだ。その二人が居る」
とイツキは忌々しそうに言った。
「そうかぁ……キースは気に食わんが、ここのお高くとまった貴族と一緒に騎士をやるよりはマシだな」
「本気か? ジョナサン!」
イツキはジョナサンの顔を窺いながら聞いた。
「ああ、本気だ。騎士にはなりたかったが、この国の騎士は平穏な日々が続いたせいか怠惰で生意気だ。自尊心ばかり強くて話にならん。それより黒騎士の方がどれだけマシか」
「まあなあ……ジョナサンのいう事も一理あるな。イツキも近衛に居る時は同じような事を言っていただろう?」
アシュリーがジョナサンの言葉を聞いてイツキに聞いてきた。
「まあな。確かにジョナサンの言う通りだ。俺が師団長している時は陰で『よそ者の癖に』ってよく言われていたよ。面と向かっては言ってこなかったが……」
「面と向かて言って来たら秒殺していただろう?」
カツヤがイツキならやりかねないという顔をして聞いてきた。
「かもな。虫の居所が悪かったらしたかもな」
とイツキは笑って応えた。
「怖い怖い。この人はすぐに暴力に訴えるんだから……」
とカツヤはイツキをおちょくった。
「お前が言うな」
とイツキは笑いながら言った。
「で、ジョナサン、本気で黒騎士になるのか?」
「ああ、お願いする」
「分かった。あの二人の為にもジョナサンに行ってもらえると心強い。明日また来いよ。オーフェンのところへ連れて行くよ」
イツキは二人の事が気にかかっていたので、ジョナサンの言葉に少し救われた気持ちにもなっていた。
「いや、今からオーフェンのところへみんなで行こう!」
と後ろから声が聞こえた。
それは自衛団団長のシラネだった。
「なんだ、お前も来たのか?」
とイツキが言うとシラネはイツキのワイングラスを取り上げ
「いただきます」
と言って一気に飲んだ。
「慌てなくてもグラスぐらい貰ってやるよ」
そういうとイツキはマリアにまたもやグラスとワインを追加注文した。
「なんだ、早かったな」
ワインを飲みながらアシュリーはシラネに声をかけた。
「はい。仕事を部下に押し付けて来ました」
「本当にええ加減な奴だな」
イツキとアシュリーは同時に言った。
「何を言っているんですか? この面子で飲めるんですよ。参加しないでどうするんですか?」
シラネにしたらこの面子は憧れの顔ぶれだった。
そんな憧れの人たちがギルドで飲んでいると分かっているのに仕事なんかしてられない。
冒険者や騎士だけでなく庶民にとっても勇者と呼ばれる魔王を倒した覇者は憧れの的だった。
シラネ自身も勇者と呼ばれる存在で冒険者からは憧れの的であったが、今はそんな自覚はない。
マリアがグラスとワイン。それと新しいワインクーラーを持ってきた。
「どうしたんですか? 勇者が五人も。新しいパーティでも作るんですか?」
マリアは驚いたような顔をして聞いた。
ここに冒険者は沢山来るが……この頃、増えたとは言え勇者と呼ばれる冒険者がこうやって一同に会することは珍しい。
「こんな暑苦しい奴らのパーティだけには入りたくないな」
イツキが本当に嫌そうに言うとすかさずアシュリーが
「それはこっちのセリフだ」
と切り返した。




