カツヤ
魔王の宮殿からギルドの自分の部屋に戻ってみると、ソファーで勝手にくつろいでいる男が居た。
男はイツキを見るとニヤッと笑った。
イツキは眉間に皺を寄せ
「お客さん! 勝手に部屋に入って貰っては困るんですけどねえ……」
とその男に向かって話しかけた。
「いや、ギルドで素人転移者をたぶらかして魔王に売りつけている詐欺師が居るって聞いたもんやから、成敗しに来てんけど……」
その男はソファーに座って足を組んだままイツキを見上げて言った。身なりは整っていた。というよりその服装から彼が王宮で勤務する騎士であることは一目瞭然であった。
イツキとその男は暫く睨み合うようにお互いを見ていた。
「相変わらずだな、カツヤ。元気だったか?」
イツキは男に近寄って右手を差し出した。
カツヤと呼ばれた男はその差し出された右手を取って立ち上がった。
「お前も相変わらず楽勝な人生を歩んどるようやな」
そういうとイツキの肩を左手でパンパンと叩いて
「元気そうやな」
と言った。
カツヤはイツキがこの世界に来て五年ほど経った頃に転生してきた男だった。
歳もイツキと同い年だった。
その頃既にイツキは三つの大陸と二つの海と二つの峡谷の魔王を倒していた。
冒険にも飽きたので、この時期のイツキは鍛冶屋を営んでいた。
そう、冒険者以外のサブ職業としてイツキは鍛冶屋を選んでいた。その職業をサブに選んだ理由は自分でレアな武器を作る事が出来るからだった。
イツキのように世界を冒険していると、レアアイテムやレア鉱石を手に入れる機会は多々ある。
なので素材には困らない。そしてイツキは日々新しい武器の研究開発に勤しんでいた。
鍛冶屋としての腕もマイスター級になってそろそろレアアイテムが足りなくなってきた頃に、転生してきたカツヤに出会った。
出会いはこうだった。
ある日ギルドの入り口の前でモゾモゾしている見慣れない格好の男が居た。
その姿、この世界の人間には見慣れない姿だったが、イツキには見覚えのある懐かしい恰好だった…そう、イツキには見慣れたジャージ姿の明らかにヒキニートな青年がそこに居た。
「おい、あんた日本から来たのか?」
イツキは思わず声を掛けた。
「え?」
とその青年は驚いたように振り向いてイツキの顔を見た。
「あんた、日本人か?」
イツキはまた聞いた。
「はい。そうです」
「今来たばかりか?」
「はい」
それがこのニ人の出会いだった。
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「まあ、座れよ」
とイツキはカツヤに再びソファーを勧めた。
それからカウンターバーに向かい、珈琲豆を挽き始めた。
「どうした急に?」
イツキは珈琲豆を挽きながら聞いた。
「いや、近くに来たから寄っただけや」
「そっかぁ……つい最近もそんな事を言ってきたやつが居たな……」
とイツキは呟いた。
その呟きを聞き及んだカツヤが
「うん?」
と怪訝な顔で聞き返した。
「いや、何でもない。で、お前のその恰好は?」
イツキはカツヤに聞いた。
「ああ、これな。今は宮廷の近衛兵団に所属してるんや」
「やっぱりそうか近衛かぁ…甲冑は身に着けていないが、騎士の制服姿が気になっていたんだが……それにしてもお前がかぁ?……そうかぁ……カツヤも貴族様かぁ」
とイツキは我が事のように喜びながら言った。




