オーフェンの悩み
そう、ここ最近は転移者の急激な増加が影響してか、魔族の復活も相当早くなってきていた。
「で、まず最初に帰ってくるのが、魔女であり黒騎士でもあるメリッサだ」
とオーフェンは浮かない表情で言った。
「メリッサってキースの嫁だったメリッサか?」
「嫁ではない。メリッサがキースに惚れているだけだ」
とオーフェンは首を振った。
「まあ、魔女がキースにいくら惚れても僕は文句は言わんが……。そうかぁ、じゃあキースも喜んでいるだろう」
「それが逆だ。キースは今が一番幸せだ。なんせメリッサは凄いヤキモチ焼きだからな」
オーフェンは眉間に皺を寄せて語った。
「あ、そうなの? それはそれは……」
イツキの顔には心の底から意地の悪い笑顔が浮かんだ。
それを見たオーフェンは
「お主の今の顔は、悪魔の嘲笑だな」
と言った。
「え? そんな事はないぞぉ。そんな愛しいメリッサに僕も早く帰ってきて貰いたいもんだ」
とイツキは表情を改めて言った。
――この頃、よく思っている事を読まれるな――
イツキは心の中で少し焦った。
「だから、あやつらが帰ってきたら、また黒薔薇騎士団を復活させようと思う。勿論、今預かっておる二人もそこに入れるつもりだ」
「まあ、それでいいんじゃないかな? もうあの二人はあんたの眷属なんだから」
「それは良いのじゃが、問題はヤキモチ焼きの方じゃ」
「え?」
「私のいない間に人間の女を連れ込んだ! とか言ってブチギレそうな気がする」
「気がするって……何とかしてよ。あんた魔王なんだから……それもこの大陸で一番強い魔王だろう?……日頃は『ワシがこの世界で一番強い。ハウザーなんか目じゃない!』とかいってるだろう?」
「それはそうじゃが……なんせメリッサは気が強いからのぉ……母親に似て……」
と言ってオーフェンはため息をついた。
「似てって……もしかしてオーフェン、メリッサってあんたの娘だったのか?」
イツキは驚いて聞いた。
「そうじゃ。ワシの娘じゃ」
オーフェンは俯いて呟いた。
「それはそれは……あ、木っ端微塵にして済まなかったな」
イツキは慌てて謝った。
「ああ、それは良い。どうせ復活するからな」
オーフェンはそのことに関しては本当に何も思っていないようだった。
「それにしても娘って……あんた保護者なんだから何とかしてよね」
思わぬオーフェンの告白にイツキは驚き同時に呆れ返った。
「分かっておるが予想がつかん……どんな手を使ってもあの二人は指一本触れささんが、もしもの時はあの二人を引き取って貰いたい。良いか?」
「ああ、分かった。その時は僕が貰い受けに来る。それまではなんとか守り抜いてくれ」
イツキはため息混じりにそう応えた。
――魔王でも父親はどこでも同じようなもんなんだなぁ――
「それにしてもキースも早くメリッサを嫁に貰えば良いのに……」
「そうなのじゃ。早く一緒になってくれればワシも安心して魔王の椅子を譲れるというものだ」
「次期魔王はキースか……」
「そうじゃ、お前にまだ勝てないが、この世界でキースに勝てる奴はそういない。もう一皮むけたらもっと強くなる」
オーフェンは一息おくと
「それに、お前が言うほどひどい男でもない」
と笑いながらイツキに言った。
「まあ、実力は分かっているつもりだけどね。しかしあの嫌味ったらしい性格は、どうしても好きになれん」
イツキは苦笑いしながらキースの事を少しだけ認めた。
「ま、兎に角、メリッサが復活したら知らせてよ。メリッサがヤキモチを焼かない可能性だってあるんだしな」
「ああ、そうじゃ。そうであって欲しいもんじゃ」
オーフェンは心の底からそう思っていた。
「まそれまでは二人の事は、くれぐれもちゃんと面倒見てくれよ」
そう言うとイツキは立ち上がった。
「分かった」
オーフェンも立ち上がった。
「こんな話ができるのもイツキ、お主だけよのぉ」
「まあ、長い付き合いだからね。じゃあ、連絡待っているよ」
そう言うとイツキはオーフェンの前から消えた。
それを見送ったオーフェンは奥の部屋へと消えた。
これからまだいろいろありそうな予感がする魔界だった。




