面談者
「ふむ……」
イツキは手にした履歴書を見たまま黙り込んでいた。何か考え込んでいるようにも見えた。
彼の目の前にはデスクを挟んで一人の男が足を組んで座っていた。
引き締まった筋肉質の身体。一目で冒険者、それも前衛系の職業だと分かる体つき。履歴書を読まなくても見ただけで分かる。履歴書には年齢三十歳と記載されていた。
「イゼルグさん。前職は『銀斧の天雷』ですか……そこの前衛を務めていたと……」
とイツキは履歴書から目を離さずに聞いた。
「ああ、そうだ。そこに書いてある通り俺は戦士だ」
イゼルグと呼ばれたこの男は前もってのアポイントもなく、飛び込みで相談にやって来ていた。相談に来た割には態度が大柄である。
「『銀斧の天雷』ってここでは割と有名なパーティですよね。普通であればそこのご出身というだけで、引く手あまたでしょうに?」
とイツキは首を少し傾げながら聞いた。
「そうだ。だが、このギルドにはクソみたいなパーティしかないみたいだ。誰も俺の実力を認めようとしない」
とイゼルグは苛ついたような表情を見せて言った。
イツキは履歴書に書いてある男のレベルを目視で鑑定してみた。
『レベル15』
イグゼルの現在のレベルや能力値がイツキの視野に映った。
それほど高いレベルとは言えないが、駆け出しというほどでもない。
中堅辺りの範疇にはギリギリ入れてあげてもいいかもしれないが、だからと言って突出した能力がある訳でもなかった。ひとことで言って凡庸である。
――『銀斧の天雷』クラスのパーティでこのレベルなら、もう少しそこに所属して経験値をあげた方が転職には有利なんだが……何故この中途半端なレベルで辞めるのか? だな――
とイツキは考えながら視線をまた履歴書に落とした。
彼の冒険者としての経歴は十六歳から始まっていた。
「十六歳で冒険者登録して今は三十歳ですか……ええと、冒険者登録してすぐにパーティに入ってますね『大楯の震龍』ですか」
とイツキは履歴書を読み上げながら男の顔を見比べていた。
「そうだ」
イゼルグはひとこと返事をした。
――まあ、この身体つきなら若いころからそれなりに鍛えていたんだろう。期待の新人って感じかな。しかしそれでこのレベルだと低すぎないか? レベル30いや40でもおかしくはないぞ――
「それはそれは、若いころから期待されていたんですねえ……」
とイツキは言った後
そんな事を考えていたがそれはおくびにも出さずに質問を続けた。
「でも、ここを二年で辞められている……」
「それが何か?」
「いえ……ちょっと色々とお伺いさせてもらっても良いですか?」
イツキの言葉はあくまでも丁寧だった。
「ああ、聞いてくれ」
「前職の『銀斧の天雷』を辞められた理由は何ですか?」
とイツキはストレートに聞いた。
「俺にはあそこは合わないから辞める事にした」
と男は言った。
「そうですか……」
――このレベルでねえ……それを言うかね。確かあそこのリーダーはマーロンだったな――
イツキは商売柄パーティのリーダーとは懇意にしている。イツキにしてみれば、この目の前に居る男の事はいつもで彼の元居たパーティのリーダに聞くことができる。なので確認しようと思えば、彼の話の信ぴょう性はすぐに分かる。
――前もってアポイントでも取ってくれていたら、情報も集められたのに――
とイツキは思っていた。
「合わなかったですか……何が合わなかったんでしょうかねえ?」
と少し上目遣いで探るようにイツキは聞いた。
「……俺とはパーティの運営についての考え方が違う。俺は自由に動いた方が活きるタイプなんだ」
少し考えてからイゼルグは答えた。
「なるほど」
――たかがレベル15でねぇ……要するに『銀斧の天雷』では評価が低くて辞めざるを得なかった訳か……自己評価が高すぎるってやつか……よくある話だな――
とイツキはうんざりした気分になったがそんな表情は微塵も見せずに
「正直言って良いですか? 『銀斧の天雷』を辞めるのであれば後レベルを10ほど上げてからやめれば良かったですね。ちょっと中途半端ですね」
と軽く煽るような言葉でイゼルグの様子を窺った。