キース登場
「いや、不満ではない。それよりも思った以上に人が来るので驚いているぐらいだ」
長く伸びた顎鬚をさすりながらオーフェンは応えたが、オーフェンの考え事はもっと別のところにあるようだった。
「キース。ここへ」
オーフェンがそう叫ぶと、待ってましたとばかりに目の前にキースが立膝でひざまずいて現れた。
「お呼びでございますか?」
「汝の新しい部下だ。エリザベス共々鍛えるが良い」
オーフェンがそう言うとキースは立ち上がり、イツキに向かって話しかけようとしたその瞬間、
「俺とは違うぞ。こっちだぞ!」
とイツキは前回のキースの対応を踏まえて先に切り出した。
キースは
「な、なんだ?……私が同じ事をする訳がないでしょう」
と言いながら明らかに同じ事をかますつもりでいたようで、案外動揺していた。
イツキは
「ふん!まあ、よろしく頼むよ。お前の部下にするのにはもったいないけどな」
とキースにアイリスを紹介した。
「私がキースだ。お嬢さん、お初にお目にかかる」
と気を取り直してキースはアイリスに話しかけた。
「は、はい。私はアイリス・ベイリーです。つい最近まで剣士をしてました」
――ああ、今目の前にキース様がいる――
アイリスは目の前にキースが居るだけで幸せだった。
アイリスの大陸制覇の相手がハウザーではなくオーフェンなら、キースが出てきた時点で自ら喜んでキースに倒されていたであろう。
「おお、それは頼もしい。これからは黒騎士として活躍してくれる事を期待する」
キースはイツキには決して見せる事はない笑顔でアイリスに応えた。
「はい!」
アイリスは元気よく答えた。
それを見て
「エリーといいアイリスといい、一体全体こんな男のどこが良いのかねぇ……ほんと、イケメンは嫌いだわ」
とイツキはため息をついた。
「まあ、私の美しさは神も羨む美しさですからね。そして私は人を育てる天才ですからね……仕方ありますまい。ま、田舎の近衛兵ごときには理解できないでしょうけどね。イツキもいつでも言ってきれくれれば、教えて差し上げましょう」
キースはそんなイツキの気持ちを見透かしたように、更に追い打ちをかけるように見下した。
「遠慮しておくわ。これ以上強くなっても困るからな」
とイツキは吐き捨てるようにキースに言うとオーフェンに
「エリーは元気にやっているか?」
と聞いた。
それにはキースが
「あの娘は筋が良い。何よりも勘が良い。そして絶対に弱音を吐かない。エリザベスを見る限り、少しは人という愚かな生き物を見直しても良いかと思うほどだ」
と答えた。
「まあ、人を褒めないキースがそういうんだろうから、間違いないんだろうな」
イツキはキースにそう言った。
「会っていかないのか?」
オーフェンが聞いた。
「ああ、会わない。流石に昨日の今日で、会うわけにはいかんだろう」
イツキはそう言ってエリザベスに会わずに帰る事にした。
本当は今でもすぐに会いたかった。
しかしここで会うのは弱音も吐かずに頑張ろうとしているエリーに、里心を芽生えさせるだけだと思い直した。




