面接
「なんとかお願いします。いま、久しぶりに気持ちが萌えてきました……いや燃えてきました」
とアイリスは縋り付くようにイツキに懇願してきた。
――ん? 待てよ。確かさっきオーデリア大陸を制覇したと言っていたな――
「さっきオーデリアを制覇したと言っていましたが、ハウザーを倒したのですか?」
イツキはアイリスに聞いた。
「はい。最後のトドメを刺したのは私です。修羅旋風剣で倒しました。八人がかりで三時間かかりましたけど……」
「三時間ですか……大したもんです」
ちなみにイツキは一人で二十分足らずでハウザーを倒している。
――これは使えるな――
イツキはにやっと笑ってアイリスに声をかけた。
「分かりました。それでは今から参りましょう」
書類の職種欄に『黒騎士』と記入してからイツキは立ち上がった。
そして
「お手をどうぞ」
と言ってアイリスの右手を取ると有無を言わさずに、そのまま一気にテレポーテーションした。
気が付くと魔王の宮殿の広間に二人は居た。
「オーフェンはいるか?」
イツキは広間に響く声で叫んだ。
前回と同じようにサルバが現れた。
「おや? イツキ様。この頃、毎日のようにお越しになりますね」
「ああ、思った以上に忙しいよ」
と苦笑いしながらイツキは応えた。
「オーフェンは居る?」
「少々お待ちを……まもなく来られると思います」
サルバがそう言うと玉座の奥からオーフェンの声が聞こえた。
「イツキ! またやってきたのか! どうじゃお主も暗黒槍騎士団に入らぬか?」
その声と共に玉座の後ろから魔王オーフェンが現れた。心なしか顔色もいいように見えた。
「いや、僕は遠慮しておくよ。それよりも黒騎士をまた一人連れてきた」
「うん? また小娘か?」
「今回も娘だが小娘ではないな。剣士だ。それも勇者だ」
「ほぉ。勇者か?」
オーフェンは鋭い目でアイリスを見た。
一瞬迫力に押されたアイリスであったが、そこは勇者としての経験が跳ね返した。
「ふむ。それで誰を倒して勇者の称号を手に入れた」
オーフェンは低い重い声で聞いた。
「オーデリアのハウザーを八人がかりでで倒した」
とアイリスは応えた。
「何? ハウザーをか?」
「その通りでございます」
アイリスが応えた。
いつもなら敵対する魔王に敬語を使う事はないが、これからこの魔王の眷属となるからにはオーフェンが主人となる。
アイリスはすでに気持ちの切り替えは済んでいた。
――いつになったらキース様に会えるのかしら――
はっきり言ってアイリスの眼中にはオーフェンの姿は無かった様だ。
「ほほほほほ……それは愉快じゃ。あのハウザーをのぉ。どうりで近頃姿を見せぬと思っておったわ」
オーフェンは楽しげに笑った。
「それで、うちに転職の相談に来て、どうしても暗黒槍騎士団の一員になりたいと言うので嫌だけど連れてきた」
とイツキは経緯を簡単に説明した。
「ふ~む」
オーフェンはなにか考えているようだった。前回とは違って今回はそれほど反対される事はないとイツキは思っていたのでちょっと戸惑った。
「どうした。不満か?」
イツキはオーフェンの顔色を窺うように聞いた。




