やる気がない女
――空気を読む力は結構あるんだ――
『それなら最初から空気を読めよ』と言いたかったが我慢してイツキは聞いた。
「それでは聞きますが、アイリスさんあなたは一体何になりたいのですか?」
「それが分かればここには来ておりません!!」
きっぱりとアイリスは言い切った。
「そりゃあ、そうですが……そもそも転職したいと思っている訳ではないんでしょう?」
「そうですね。ただやる気が起きないだけです」
「そういう時に転職しても無駄だと思いますよ。やる気のない状態で興味のない仕事について、それでうまくいくとは思えませんねえ」
とイツキはほとんど投げやりな気分で言った。
早くこの面倒な相談者にお引き取り願いたい気分でいっぱいだった。
「やっぱりそう思いますか?」
思い当たる節があるのか、アイリスもそれを受け入れたようだった。
「そう思います。第一、ここは冒険者のギルドですよ。まずは冒険したいかどうかです。その辺はどうなんですか?」
「冒険ねぇ……もう一回やっちゃいましたからねえ……もういいです」
「だったら、ここに来る必要はないですよ」
「やっぱり答えはそうなりますか?」
「そうなります……と言うか、それしかないです」
とイツキは諦め顔で首を振った。
「だったらここで雇ってくれませんか?」
「要りません」
「なんで?」
「職業を一つしか持っていない人はキャリアコンサルタントは出来ません」
イツキは少し強めに言い切った。
「キャリアコンサルタントでなくても良いんです。秘書でどうですか?」
「それも要りません。僕一人で十分です」
「そこをなんとか」
「ダメです」
「はぁ、そうですか……じゃあ、なにかいい職業ないですか?」
アイリスは肩を落としてイツキに聞いた。
イツキは仕方なくいつもの職種紹介のポスターを広げてアイリスに見せた。
アイリスはそれをざっと見て言った。
「はぁ……なんかピンと来ませんねえ……」
「そりゃそうでしょう。既に燃え尽きて真っ白な灰になってしまっているんですから……。剣士を極めたら次は騎士でもすればどうですか?」
「ここの騎士はしがらみが多いから嫌です」
「よくご存じですね。まあ、だいぶ改善されましたが、しがらみの多い世界ですからねえ……。同じ騎士でも黒騎士の方が楽かもしれませんねえ」
とイツキは呟くように言った。
「黒騎士? なんですかそれ? 初めて聞きましたけど」
とアイリスは少し興味を抱いたようだった。
「ああ、これね。つい最近うちのギルドで扱いだした魔族系の職種です。ま、魔王の眷属ですから、冒険者と敵対する職種ですね。つい最近も一人転移者が黒騎士になりましたけど」
「え? 本当ですか? もしかしてこの黒騎士ってあの暗黒槍騎士団に入れたりします?」
とアイリスは俄然興味が湧いたようにこの職種に食らいついてきた。




