入団
「分かりました。採用させていただきましょう」
とシラネは即答した。
「いや、もっとちゃんと本人と話をしてからでなくていいの?」
とイツキが慌てたように言った。
「いや、イツキさんの紹介なら大歓迎ですよ。イツキさんの目利きは信じてますから」
とシラネは答えた。彼にとってイツキの言葉は絶対であるようだ。
「そうでもないよ。俺は結構その時の気分だからねえ……」
とイツキは応えながら、そのままヨッシーに視線を移して聞いた。
「この軍団はね。いつもニコニコしながらね。この近くの森に行っては散歩がてらにモンスターを殺戮しまくる軍団なんだよ。いつも皆殺しさ! イェイ!で、その後は残った財宝をごっそりと分捕って帰ってくる。どう?」
「ちょっとイツキさん、そういう言い方したら、うちがとんでもない軍団に聞こえるじゃないですか?」
と慌てて団長のシラネが間に割って入った。
「え? そう? モンスターやっつけないの?」
とイツキが可愛く聞いた。
「いえ、やっつけますけど」
シラネは困ったように応える。
「いつも何匹かには逃げられるの?」
さらにイツキは突っ込む。
「いえ、見つけたら全部倒しますが……」
何言ってやがんだと思いながら答えるシラネ。
「だったら、間違ってないじゃん」
満面の笑みのイツキ。
「いや、そうですけどね……ものには言いようってもんがあるでしょう」
とちょっとキレかけるシラネ。
それを無視してイツキはヨッシーに
「そこそこハードで和気あいあいって分かって貰えたかな?」
と笑顔で言った。
ヨッシーは
「はは……な、なんとなく……」
と苦笑いしながら答えた。
イツキは
「ヨッシーさぁ。冗談はさておき、取り合えずここで頑張ってみてよ。君の境遇も良く分かってもらえると思うし」
と励ました。
「はい。頑張ります。ありがとうございました」
ヨッシーはまた90度に背中をまげてお礼を言った。
「もうそれは良いって」
イツキは笑いながら言った。
「じゃあ、団長さん。ヨッシーをよろしく頼みますね」
「分かりました。一人前の剣士にします」
「ほい。じゃあよろしく。彼は良い”騎士”にもなれると思うよ」
そう言うとちょっと驚いた顔をした団長を横目に、イツキはヨッシーを置いて部屋を出て行った。
階段を下りて玄関までたどり着くと、さっき敬礼した衛兵に
「トシちゃん。若いの入れたからちゃんと教えてあげてね」
と声をかけた。
トシと呼ばれた衛兵は
「はい。任せてください。さっき一緒にいた彼ですね。彼も転移組ですか?」
と聞いてきた。
「そうだよ。君と一緒。まあ、よろしく頼むよ」
「はい、分かりました。でもこの頃、転移してくるの多いですねえ…」
「そうそう、多いねぇ。お手軽に異世界にやってくるからねえ……それと同時に『エタの呪い』も流行っているねぇ……」
と言いながらイツキは肩をすぼめた。
「エタの呪いですか……。あれは厄介ですねえ。急に消えますからねえ……あるいは一歩も先に進めなくなりますしね」
「そうそう。お互い気を付けてエタらないようにしないとね」
「そうですね。気をつけます」
と言って衛兵はイツキに敬礼した。
そう、この世界では転移してくる転移者が一気に増加している。それと同時に『エタの呪い』と呼ばれる転移者・転生者のみに現れる現象が見受けられるようになった。
それはこれからの活躍を期待されている多くの転移・転生者がある日忽然と消えていなくなるという……本当に残念な現象である。
この世界ではそれを『エタの呪い』と呼んで忌み嫌っている。
「それでもやって来るんだよねえ。異世界に……だから俺の仕事もなくならないってね」
イツキはそう呟くとまたギルドの自分の部屋へと戻って行った。その姿は少し寂しそうだった。