黒騎士エリザベス
それを見送るとオーフェンは笑いながらイツキに言った。
「まんまとお主に嵌められたのぉ」
「何の事やら、分かりませんな」
イツキも苦笑しながら応えた。
「それにしても良い度胸しておるな。あの娘。あんな小娘初めて見たわ!」
とオーフェンは感心したように言った。
「いやいや。あんなに度胸があるとは僕も思わなかったよ。びっくりしたなぁ。それにしても小娘に翻弄されている魔王を僕も初めて見たわ」
イツキも本気で驚いていた。そしてその度胸に感心していた。
「ワシも驚いたわ。あれならモノになるかもしれんな」
とオーフェンは満足げに応えた。
「まあ、無茶はさせないで下さいよ。まだ子供なんですから」
「キースは女子供には優しいから大丈夫だろう」
「いやいや、ああいうタイプはフェミニストの仮面を被ったサディストが多いから。信用ならん」
イツキはキースを全く信じていない。
「しかし……相変わらずお主の気迫は凄まじいのぉ……久しぶりにお主の殺気を感じたわ」
「そうですかねえ……。魔王覇気には負けると思いますけどね」
とイツキは惚けたように言った。
「やはりイツキは冒険者の方が似合いますな」
サルバが口を挟んできた。
「そうかなぁ。もう闘うのはもう遠慮したいね」
「いやいや、また騎士にでも戻ってハウザーの奴を懲らしめてもらいたいもんじゃ」
とオーフェンは真顔で言った。
「なんだ? この頃、魔王ハウザーとは連絡を取ってないのか?」
「取るもんか! あんな奴は!」
オーフェンは憤りながらイツキに答えた。
「どうしたのサルバ?」
イツキはサルバに聞いた。
「いえ。この前ね、部下の魔族が少ない事をハウザーにおちょくられて怒っておいでになられているだけです」
とサルバも呆れ顔で答えた。
「ハウザーのところも結構少なくなっているんじゃないのか?」
「そうなんですけどね。目くそ耳クソの世界ですな」
「成る程ね」
イツキも呆れ顔で笑った。
そんな話をしている中、甲冑の擦れる音が聞こえて二人の黒騎士が兜を小脇に抱えてやってきた。
一人はキースだったが、もう一人は黒髪をなびかせたエリーだった。
「ほ~。似合うねえ……エリー」
イツキは驚いた。エリーがこんなにも甲冑姿が絵になるとは思わなかった。
イケメンのキースとエリーが二人でそこに立っているだけで華やかな空気が漂う。魔族なのに……。
――なんか腹立たしい――
イツキは無性に腹が立ってきたが、それは流石に表に出さなかった。
「そうですか?ちょっと甲冑が重いですが頑張ります」
「そんなものはすぐに慣れるさ。僕が教えるんだから。どこかの田舎者とは教え方が違うからね」
と早速キースはイツキに対して嫌味を言ってきた。
「ふん! まあ頼むよ。さぞかし優雅でエレガントな黒騎士に育つんだろうな。楽しみにしているよ。エリー、そのサディストにいじめられたらいつでも言っておいで。僕が成敗してやるから」
「はい。イツキさん!」
「な~に言っているんですかぁ。私はフェミニストですよ。フェミニスト。田舎育ちの冒険者と一緒にしないで貰えます? 私に任せた事をイツキあなたも後で感謝する事でしょう」
「ハイハイ。楽しみにしてますよ」
イツキは適当に返事をした。
――本当にこいつだけは好きになれんな――
イツキとキースはやはり相性が悪い様である。




