キース登場
「ちょっと待て!! ハウザーに言うのはちょっと待て!」
オーフェンは焦ってイツキに待つように懇願した。
小娘を眷属にするよりもハウザーに出し抜かれる方が悔しい。このままハウザーに、この小娘をイツキが持っていったら『本当にオーフェンは小物よのぉ』と高笑いされるに違いない。
……オーフェンはそう考え本気で焦った。
――そういえばオーフェンとハウザーは仲が悪かったな――
とイツキは心の中でほくそ笑んでいたが、同時にエリーの度胸の良さにほれぼれとしていた。
「待ったら、なんかええことあんのか? おっさん?」
エリーはいつの間にかヤンキー女子高生になって魔王をオッサン呼ばわりし始めた。
「う~ん。気に入ったぞ。この小娘……そなたを気に入った」
オーフェンは完全に怒りモードが解けて、哀願モードになっていた。
さっきまで充満していた魔王覇気は一瞬で消え去っていた。
「何がぁ?」
エリザベスは顎を突き出し目を細めて聞き返した。まるでヤンキーのお姉さんのように。
「ワシが悪かった。そなたを我が眷属にしよう」
とオーフェンは哀願するように言った。
「何を今更……あほちゃうか?……イツキさんそのハウザーっていうのはイケメンなん?」
エリーはオーフェンの言葉を無視し振り返ってイツキに聞いた。
「そうやなあ……婦女子には人気あるかなぁ……」
そう言いながら
――小娘に頭を下げたオーフェンなんか初めて見たけど、それを全く無視した小娘エリーもスゲ~――
と更にエリーの度胸に驚いていた。
「イツキ! 何を言っている。あいつが婦女子にモテる訳があるまい!!」
「お、そうだ!キース!! キース! 直ぐに参れ!」
オーフェンは広間の隅々まで響く声て叫んだ。
――こうなったら奥の手を使う以外にはない――
オーフェンはそう思った。
イツキとオーフェンの間につむじ風が舞ったと思ったら、そこにキースが片膝をつき現れた。
「お呼びですか? オーフェン様」
「おお、呼んだ、呼んだ。今、イツキが来ておるのじゃが、新しい黒騎士を一人連れて来てくれたのじゃ。お主に面倒を見てもらおうと思ってのぉ」
とオーフェンは慌てながら事の顛末をキースに語った。
キースは面をあげ立ち上がった。
顔の前に垂れた紫色の前髪をサラッと寄せると
「初めまして。私が暗黒槍騎士団団長のキースだが、あなたが黒騎士になりたいのかな?」
とイツキに向かって言った。
「お前、馬鹿だろ?」
とイツキは鼻で笑った。
「なんだ、異世界から来た田舎者か? これは失礼。こちらのお嬢さんでしたか?」
上から目線でイツキを見下してから、エリーの手を取り膝間付き右手の甲にキスをした。
「はい。私が黒騎士希望のエリーです。よ・よ・よろしくお願いします」
と声を上ずらせながら答えた。
既にエリーは舞い上がっていた。
――なんてイケメン……こんな人が黒騎士に居ただなんて……――
とエリーは感動していた。
「どうじゃ、小娘。そのキースがお主の面倒を見る師団長だ」
「魔王陛下よろしくお願いします」
とエリーは片膝を着いて挨拶した。
イツキはそれを見て
――おいおい、変わり身が早すぎるだろ?……これだからイケメンは嫌いなんだ――
と心の底からキースを呪った。
魔王オーフェンは安心したようにふんぞり返ると
「それでは汝を我が眷属とする。名は何と申す」
と聞いた。
「エリザベスと申します」
片膝をついたままエリザベスは答えた。
「エリザベス、これから余に忠誠を尽くすか?」
「はい」
「よろしい。汝を我が眷属として認めようぞ」
「ありがたき幸せにございます」
魔王オーフェンは剣を抜き、呪文を唱えながらエリーの右肩そして左肩に剣を置きそしてその剣をエリーの頭の上に置いた。
その瞬間エリーの体は紫色の光に包まれて、やがてその光はエリーの体に吸収されるように収束した。
オーフェンは剣を鞘に納めるとキースに向かって命令した。
「これで我が眷属に女黒騎士が誕生した。キースよ。汝がこれの面倒を見るが良い」
「は、我が命に代えても、この者を一人前の黒騎士として仕上げて見せます」
そういうと
「ついて参れ!」
とエリーを連れて奥の部屋へと消えて行った。




