変わらぬ決意
翌朝、マーサが野田美幸を連れてイツキの部屋にやってきた。
「イツキ、おはようございます」
「おはようございます」
二人はそろってイツキに挨拶をしながら入ってきた。
「ああ、おはよう」
とイツキはデスクに読んでいた新聞を置いた。
そしてデスクに肘をついて顔の前で手を組んで聞いた。
「エリーは昨日マーサと色々お話ししたのかな?」
「はい。一杯聞いてもらいました」
とエリザベスは元気よく答えた。
「そうか。それは良かった。で、気持ちは変わらないかね」
「はい。変わりません」
エリーは真っ直ぐにイツキの目を見て即答した。その声に全く迷いは無かった。
「分かった。じゃあ、君は今日から黒騎士だ」
そういうとイツキは、デスクに置いてあった書類に野田美幸の職種を黒騎士と記入した。
「これで、後は魔王オーフェンに眷属の受戒を受ければ終わりだ」
「マーサ、君から何かあるか?」
イツキはマーサに視線を送り聞いた。
「エリーとは約束したの。何があっても生き延びるって。そしてまたこのギルドに帰ってきてイツキのコンサルを受けて、今度はここで私と一緒に働くの」
「え? そんな約束したの?」
「はい。生き延びて強くなって私はここに帰ってきます。そしてイツキさんの秘書をします」
とエリザベスはきっぱりと言い切った。
「いや、別に秘書にはならなくて良いけど……」
とイツキは慌てたように応えたが
「いえ。なります。ならせてください。その為に生き残ります」
とエリザベスは更に力を込めて言った。
イツキは少し考えて
「分かった。じゃあ僕はその時を待っているよ」
と笑顔で応えた。
「はい」
エリーは嬉しそうに笑顔で返事をした。
昨晩、マーサにこれまでの自分の人生を全てを語った。そしてマーサからイツキの事も聞いた。
エリーはイツキのように強く生きたいと思った。
イツキを目標にしたら何故かこの世界でも生き延びる事が出来る気がした……と言うか生きる価値を見出せそうだと思った。
彼女は心のどこかに『もうどうにでもなれ』と自暴自棄な感情があるのを分かっていた。
それもあって、毒を食らわば皿までで黒騎士を選んだのであったが、それをマーサに見透かされ、マーサの話を聞くうちに考えが変わった。
この世界にひとりでやってきたのはエリザベスだけではない。そして文字通り独りぼっちでやってきて生き抜いたイツキが居た事をマーサの話で知った。
そして一人で魔王オーフェンに勝負を挑んだ勇者がイツキである事を聞いた時、『やっぱり魔王の眷属になって帰って来よう』と思った。
形は違うがイツキのように魔王オーフェンといつでも会える人間となりたかった。
それが彼女が出した結論だった。
イツキは暫くエリーの瞳を見つめていたが、その瞳に迷いが無い事を確認すると
「それじゃあ、行こうか」
と立ち上がった。
そしてエリーの手を取って
「マーサ、ちょっとオーフェンのところまで行ってくるね」
と言ってイツキとエリーは煙になって消えた。
それを見送ったマーサは
「頑張ってね。そして帰ってくるのよ。エリー」
と呟いた。




