言い訳
そこへリンダが猫耳をぴくぴくさせながら珈琲を持ってきた。
イツキは嬉しそうにリンダが部屋を出ていくまでその猫耳を見ていた。
「イツキ、猫耳好きだね」
と半ば呆れたようにヘンリーは言った。
「うん。なんだか見てると癒される」
とイツキは嬉しそうな表情で言った。
「そんなもんかねぇ……」
ヘンリーは更に呆れたように呟くと珈琲カップを皿ごと持ち上げて口を付けた。
「まあ、明日はオーフェンとキースに頭を下げてくるよ。どうせならごっつい男が来たら良かったのにな。だったらこんなに悩まないで放り込めたのになぁ……はぁ」
とイツキはため息交じり言った。
「まあ、来てしまったのは仕方ない。明日はよろしく頼むよ。ところで、その女の子は今はどうしているんだっけ?」
とヘンリーが聞いた。
「ああ、マーサが一晩、面倒を見るって連れて帰ったよ」
「マーサか……彼女は本当にあの子は面倒見が良いな」
「うん。仕事も気が付くから、僕も助かっているよ」
「まあ、イツキの部屋に泊めるよりは安全だな」
「流石にこの歳で女子学生には手を出さんでしょう」
「何言ってるの貴族なら十六歳で当たり前のように結婚しているぞ」
ヘンリーは憮然とした顔で応えた。
「え? そうだっけ」
イツキは驚いた。
「そうだよ」
ヘンリーはそう頷くと
「イツキが居た世界ではどうか知らんが、この世界は二十代まで独身って貴族ではあまりないな」
と、この世界の現状を話し出した。
「そうかぁ……ここはロリコンがOKなんだった……」
この世界では政略結婚も多く、貴族の家に生まれた女子は早く嫁に出される。なので貴族の女性の結婚適齢期は十代半ばだったりする。
イツキはそれを思い出した。
「良かった。マーサに預けて。ロクでもない奴に変な噂を流されるところだったわ」
とヘンリーに言った。
「まさか、変な噂を流すロクでもない奴とは僕の事とでも言いたいのですかな? イツキさん?」
とヘンリーは眉間に皺を寄せながらイツキに詰め寄るように聞いた。
「まさか、そんな美味しいネタをつかんで黙っていられるヘンリー閣下ではないでしょう?」
とイツキはすました顔で応えた。
暫しの沈黙の後二人は顔を見合わせて笑った。
「それじゃ、僕は戻るわ。また明日」
とイツキは立ち上がった。
「キースによろしく」
とヘンリーも同じように立ち上がって言った。
「はいはい。伝えておくよ」
そう言ってイツキは部屋を出て行った。
さっきまでのイライラ感が、ヘンリーとのたわいもない話とリンダの猫耳のおかげで消えた。
スッキリとした気持ちでイツキは自分の部屋へと戻っていった。




