猶予
イツキはエリザベスの瞳に固い決意を読み取った。
しかし
「オッケー。エリー、君の意見は良く分かった。しかし、今この場で決めるのはやめよう。今日一晩寝て考えよう。良いね」
とイツキは敢えてここで結論を出すことは避けた。
「はい。でも私の気持ちは変わらないと思いますが」
とエリザベスは少し不満げに応えた。
「そうだとしても一晩は考えよう。今日は泊まるところはあるのか?」
「ないです」
「そうかぁ。僕の家でも良いが……一人暮らしの家に女子高生を連れて帰るのも気が引ける……ちょっと待ってて」
「私は気にしませんよ。野宿でも良いし」
「そういう訳にも行かんだろう」
イツキはそういうと部屋にあった呼び鈴を鳴らした。
暫くしてマーサがノックして入ってきた。
「どうしたのイツキ?」
「いや、実は今日一日この彼女の泊まるところを紹介して欲しいんだ。お金は僕が払う」
「あら、職業が決まらないの?」
「いや、そうではない」
イツキは今日からこのギルドが魔王の眷属・黒騎士と黒魔導士を扱う事とそれに野田美幸が就きたいと言っている事を話した。
「だから一晩ゆっくりと考えて欲しいんだ」
「少しだけギルマスから聞いてましたけど……って言ってもさっき聞いたばかりですけど……。それにしても黒騎士ですかぁ!! それは流石のイツキでも悩みますねえ」
とマーサもイツキの気持ちを理解したようだった。
「流石にね。今回だけは『はいそうですか』とは、すぐに言えんよ」
「分かりました。じゃあ、今日は私の家に泊まりなさい。お姉さんが話を聞いてあげるわ」
マーサはエリザベスにそう言った。
「え? 良いのか? どっかの冒険者の宿でも良いんだけど」
イツキは驚いてマーサに聞き直した。
「実は私も彼女が気になっていたの。だから大丈夫よ」
マーサはエリザベスに向かって
「今日は私の家に泊まりなさい。ゆっくり話をしましょ。決めるのはあなただけど、慌てて結論を出す必要はないわ」
と優しくそれでいて拒否は出来ない強い声で言った。
「はい。分かりました。ありがとうございます」
エリザベスはマーサに頭を下げてお礼を言った。
確かに彼女はタカビーで鼻持ちならんお嬢様な部分もあったかもしれないが、本当は素直な優しい良い子だ。自分に厳しい分、他人にも厳しくなってしまっているだけで、それが際立って見えるからタカビーな女と捉えられているだけだ。
自分の置かれた立場もこの状況で冷静に見ている。
もう少し歳を食って経験と知識をそれなりに詰め込んだら、それはそれで彼女の良い個性として花開く事だろう。
イツキにもそれが分かっていた。
だからもう少し時間をかけて欲しかったが、ここに転移してきた時点でそれはない。
否応なしに自分の人生と向き合わねばならない。
だから無駄だとは知りつつもイツキは彼女に一晩だけでも考えてもらいたかった。
「イツキ、このまま彼女を連れて帰って良い? それともまだ話がある?」
とマーサはイツキに確認した。
「いや、大丈夫だ。済まないが今日一晩頼む」
とイツキはマーサに頭を下げて頼んだ。
「オッケー。じゃあ彼女を連れて帰るね」
と言うとマーサはエリザベスを連れて出て行った。
二人を見送った後、一人事務所の部屋でイツキは考えた。
「それにしても間が悪い……なんで今日なんだ? 昨日だったら悩む事もなく剣士か白魔導士にしたのに……」
「しかし……彼女なら良い黒騎士、暗黒騎士団員になりそうな予感がする……なんでだろう?」
そう、イツキ自身にも結論を出せなかった。
イツキは椅子の背もたれに体重を預けて天井を見た。
「いくら考えても仕方ないな。俺の人生でもないし、決めるのは彼女だ」
イツキの腹も決まった。




