状況把握
とはいうもののこのまま放置するわけにもいかない。
「さてどうしたものか……」
イツキはいつもならこういうタイプの女性は案外正統では剣士とか騎士・魔道士等を勧めていたが、
「この子なら黒騎士も面白そうだなあ……」
と考えていた。
――その前にもう少し話を聞こうか――
そう判断したイツキは
「どういう状況でここに来たのかな?」
と聞いた。
「はい。妹が車に轢かれそうになってのでかばったら、跳ねられて気がついたらここにいました。
――何度聞いても見事なテンプレだ――
「なる程。妹さんをかばって自分が轢かれたと……いつも辛く当たっていた妹さんなのに何故?」
「私にも分かりません。気がついたら身体が動いていたんです」
正義感は強いようだな。やっぱり妹が憎くていじめた訳ではなかったのようだ。
それだけでも評価できる。
ただ性格は若干屈折していそうだな。
イツキは彼女と話をしながら、彼女の人となりを分析していた。
「あなたは本質的には優しい人なんでしょう。曲がった事はどちらかと言えば嫌いで許せないところがありますね」
「はい。どちらかと言えばそういう性格だと思います」
「なのに妹さんには辛く当たった」
「……はい」
野田美幸は俯いて小さい声で返事をした。
いつもなら……この異世界に来る前であれば、他人に自分の本性や本音を見せる事はまずなかった。
しかし、今この時点で野田美幸はイツキに対しては素直に全てを正直に答えていた。
それは本能的にそうした方が良いと感じたという事と、イツキにすがるしかここでは生きていけないという認識がそうさせているのだった。
イツキもそれが分かっていた。そして話題を変えて野田美幸に話しかけた。
「美幸さん。あなたはさっきRPGをよくしていたと言いましたが、その時のハンドルネームは覚えてますか?」
「エ・エ・エリザベスです……」
野田美幸は恥ずかしそうに答えた。
「なんかゴージャスなハンドルネームですね」
――分かり易いハンドルネームだな――
イツキはまたもや顔がにやけそうになるのを我慢して、爽やかな笑顔を心がけてにやけそうな本心を隠した。
「他には、ミューっていうのも使ってました」
「みゆきがなまってみゅうですか?」
「そうです。みゆき-みゅうき-みゅうです」
案外この子の内面はかわいい系なのかもしれないな。
イツキはふとそう思いながら話を続けた。
「ここでは新たに名前を決める事が出来ます。勿論本名の野田美幸でも結構ですが、ここでは長ったらしい本名は意味を成しません。私としてはエリザベスかミューのどちらかをお勧めしますが? どうします?」
「……ではエリザベスにします」
野田美幸は少し考えて決めた。
――やっぱり気に入っていたのねその名前――
「じゃあ、これからエリザベス。あるいは愛称のエリーで呼びましょう」
イツキは野田美幸が座っている椅子の前でしゃがみ込んで、彼女の両手を自分の両手でくるむように取った。
そして
「元気を出して行きましょう。僕がちゃんとこの世界で楽しく生きていけるようにしますから」
と元気づけた。
「はい」
ここまで我慢して入たのが一気に押し寄せてきて野田美幸の瞳から涙がこぼれた。
イツキは持っていたハンカチを渡すとエリザベスの背中に手を置き黙って落ち着くのを待っていた。
暫くして気を落ち着かせたエリザベスは顔を上げた。
ハンカチで目頭を押さえながらも何とか自分で踏ん切りをつけたようだった。
「ではエリー、良いですか?」
「はい」
まだ少し声が涙で濡れていたが、はっきりとエリザベスは答えた。
「オッケー。この世界で生きていくためには、まずあなたの職種を決めなくてはならない」
そういうとイツキは自分の席に戻り、デスクの上にヨッシーに見せたのと同じ職種紹介の資料を見せた。




