転移者は女子高生
「またか。今回は早いな。良いよ、連れてきて」
「助かるわ。じゃ」
そう言うとマーサは戻って行った。
イツキは自分のデスクに座って待つことにした。暫くして開いた扉から若い女性が入ってきた。
「あ、ごめん。ついでにそこのドアを閉めてもらえますか?」
イツキはドアも締めずに入ってきたその女性に扉を閉める様にお願いした。
「あ、済みません」
とその女性は素直に謝り、慌てて扉を閉めた。
「どうぞ」
とイツキは立ち上がってデスク前の椅子を彼女に勧めた。
その女性はどう見ても日本の女子高生。
ただ前回のオドオドした男子高校生とは違い、目に不安の色は少ない。
「私はここでキャリアコンサルタントをしているイツキです。あなたのお名前は?」
イツキは自分の席には座らずデスクの脇に立ったまま話を続けた。
「私は野田美幸と言います。」
「野田美幸さんですね。職業は……女子高生?」
「はい。高校二年です」
「そうですか……。で、今あなたはどういう状況になっているか理解してますか?」
イツキは優しく聞いた。
「なんとなく……」
イツキは頷いて目で話の続きを促した。
「もしかして私って異世界に転生しましたか?」
「はい。もしかではなく間違いなく異世界に転生してます」
「そうですか……」
「今あなたがいるこの場所は何か分かりますか?」
とイツキは聞いた。
「ギルドですか?」
「そうです。あなたは今までにRPGをした事はありますか? ファンタジーものでもクエストものでもなんでも良いんですが……」
「あります。シリーズ物は全てやってます」
「成る程……」
――もしかしてこの子はテンプレか?――
イツキは顔がにやけるのを抑えて努めて平静を装い話を聞いていた。
「このギルドは冒険者のギルドです。ここに来た人は冒険者になるための職業を選ぶことができます」
イツキはなるべく感情を出さないように話した。
それでも顔がにやついているのではないかと心配になっていた。
「そうなんですね」
「もし冒険者以外の職業を選ぶのであれば、他のギルドをご紹介しますがどうしますか?……」
彼女はその問いには答えずに
「まだ信じられないんですが、夢ではないですよね」
とイツキに聞いた。
「夢ではありません。残念ながら現実です」
「元居た世界に戻ることはできるんですか?」
「出来ません。私の知る限り戻った人はいませんし、聞いた事もありません」
「そうですか……もしかして私以外にも転移者っているんですか?」
イツキの話口調から野田美幸は他にも転移者が居るのでは? と思った。
「いますよ。沢山」
「沢山?」
「はい。今まで何万人も来てますよ」
「そんなに?」
「はい。そんなに……。ちなみに私もそうです」
「え! そうなんですね」
野田美幸は驚いたように声を上げた。
「はい。高校生の時にここに来ました」
彼女はイツキが自分と同じ転移者だと言うのが分かってホッとした。
そしてほかの転移者と同じように目に涙を溜めてイツキを見つめた。
「兎に角、これからどうするか一緒に考えましょう」
とイツキは優しく声を掛けた。
「はい」
「つかぬ事をお伺いします。前の世界では、美幸さんはええところのお嬢さんでしたか?」
「お嬢さん?」
「お金持ちのお嬢さんとか社長令嬢とか家族の中で一人だけ母親が違うとか、あるいはどっかの王国の腹違いの皇女とかであったりしませんか?」
「はい。父はそこそこ大きな会社の経営者で私はその娘でした。腹違いの妹がいます」
「その妹はお父さんの愛人の子とか?」
「はいそうです」
――どちらかと言えば、前居た世界の方がテンプレぽいな――
「その子に何も恨みはないが、父親への怒りとか母親への思いとかそんなこんなで、結構妹さんに辛く当たったりしてませんでしたか?」
「……はいその通りです。もしかしてその罪でここに来たとか……」
「罪かどうかは僕には分からないけどね。そういう人が多いのは確かですよ」
――できればこっちの世界でそのシュチエーションだったらテンプレだったのに――
と少しイツキは残念だった。




