新たな転移者
「なる程、先にイツキに情報を聞いていれば良かったな。この世界はイツキが初めて転移してきた冒険者だったからな。皆イツキにこの世界の事を教えてもらっていたのか……」
「そうですよ。最初は僕一人で戦ってましたからね。後からきた奴はみんな僕のところにやってきたから、顔馴染みにはなりますよ。逆にここ最近の転移者の方が判らんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、転移者がこれだけ多いと、転移してきたばかりの新人でも何かと情報を手に入れる事は出来ますからね。わざわざ古株の転移者に聞かなくてもなんとかなるもんですよ。それにギルドに来たら其の辺に異世界からきた冒険者がわんさかいますからね」
「そうだったな」
とヘンリーは呆れ気味に頷いた。
「でも、あのシュナイダー侯爵が何も言わなかったって気にはなりますね」
とイツキも侯爵の態度が気になるようだった。
「ああ、シュナイダー侯爵が転移者の力を正確に理解していることは間違いない。だから暫くは侯爵の動きをこれからも見ていくつもりだ」
「それは賢明な判断ですね」
イツキもその意見には賛成だった。イツキ自身はシュナイダー侯爵に何ら先入観を抱いていない。
侯爵がイツキの爵位や近衛師団長の就任に異を唱えたのも理解できる事だと思っていた。しかし、何かと目立つ人が急に目立たなく大人しくなるのは何か気にかかるのも事実である。
「まあ、僕の思い過ごしならいいんだが……」
ヘンリーはそう言ってこの話題を終わらせた。
それを察してイツキは事務的な事を聞いた。
「ところで職種ですが、取り敢えず取り扱い職種は黒騎士と黒魔道士で行くんですか?」
「ああ、そのつもりだ。取り敢えずはその二職種で進めようと思っている。後で転職の神殿に登録しに行かねばならんがな。しかし、このギルドで登録してそのままここでパーティを組む訳には行かないからな。やはり、オーフェンの宮殿にテレポーテーションさせるか?」
「そうですねえ。ここで魔人軍団を作らせたら、速攻で冒険者の餌食になりますからね。そうした方がいいでしょう」
「じゃあ、オーフェンにその辺の段取りだけは伝えておいてくれるかな? うちの連中じゃオーフェンに会いに行くなんてとてもじゃないが無理だわ」
「まあ、そうでしょうなぁ……それは僕がやりましょう」
「よろしく頼むよ」
「しかしなあ……改めて考えてみると、イツキは凄いんだって思うよ。普通は魔王オーフェンに会いに行くなんて有り得ないからなあ」
「まあ、あのオッサンとは二回ほど戦いましたからねえ……。もう戦う事はないと思うけど。そう言えばヘンリーも戦ったん事あるんでしょう?」
「なんでそれを知っているんだ?……。僕の場合は軽くあしらわれて逃げて帰ってきただけで、あれは僕の暗黒歴史だから聞かないでくれ……。だからあのオーフェンに勝ったイツキは尊敬に値するんだよ」
「そんなもんですかねえ。それにしては尊敬の念が全然伝わってこないんだけど……」
「そうかぁ? おかしいな」
ヘンリーは笑いながら席を立った。
「さて、そろそろ自分の部屋へ戻るわ。まだ今日はまだ顔を出していないからね」
「そうですか。またシュナイダー侯爵家の情報が入ったらお知らせします」
イツキはそう言いながら部屋の出口までヘンリーを見送るために一緒に立ち上がった。
「それはありがたいな。頼むよ」
そう言うとヘンリーは扉を開けて出ていこうとしたが、急に振り向いて
「あ、忘れていた。国王陛下から『またチェスの相手に来い」とのお言葉だ。ちゃんと伝えたからな」
「はあ。陛下も接待チェスに飽きたようですな。その内に顔を出しますと言っといてください」
「分かったよ」
そう言うとヘンリーは出ていった。
ヘンリーと入れ替わるようにマーサが入ってきた。
イツキの顔を見るなり
「イツキ、ちょっとまた転移者が来たんだけど連れてきて良い?」
と聞いてきた。




