元老院 その1
「まあ、それぐらいなら良いけど……僕はキャリアコンサルタントであって、ギルドの本部スタッフではないんだけどね」
イツキは半ば呆れ気味に言った。
しかし、相手がヘンリーなのでそれ以上は言えなかった。
「それは分かっているよ。でもうちのスタッフで、魔王と渡り合える奴なんか他に居ないんだから頼むよ。イツキ」
「それは分かっているけど……」
兎に角ここでイツキにへそを曲げられたら、この話は前に進まなくなる可能性が大きくなる。ヘンリーは何とかイツキの機嫌を取りつくろうとした。
「で、それで元老院はいつ開かれるんだ?」
イツキは改めてヘンリーに聞いた。
全てはこれが上手くいかないと始まらない。
「明後日だよ。その場で国王からこの件に対して諮問が行われる。シェーンハウゼン侯爵から上奏され、国王が諮問されるので私がそれにお答えするという形になるかな」
「まあ、前もって話は通してあるから形だけで終わると思うんだけどね」
ヘンリーはそれなりに自信があるといった表情でイツキに話した。
「僕としては、折角ロンタイルの魔王にまで会いに行って了解を貰ったんだからな。無駄骨に終わるのだけは避けたい」
イツキはリンダに入れてもらった珈琲を飲みながらそう言った。
「分かっているよ。イツキ」
そう言ってヘンリーも珈琲カップを手に取った。
二日後、元老院は予定通り開かれた。
定例の議題が進行している間は、会議が行われている広間の隣の控室でヘンリーは待っていた。
余り緊張したりする性格ではないヘンリーであったが、流石に元老院で話をするとなるとそれなりに緊張感が漂ってくる。
扉を通してこぼれ聞こえる声の雰囲気からすると取り立てて何の問題もない……いつも通り会議が進行しているようだった。
「これなら、すぐにこの案件の説明も終わりそうだな」
とヘンリーは安心した。
「ヘンリー・ギルマン伯爵。中へ」
そう呼ばれてヘンリーは立ち上がった。
元老院への両開きの扉が左右同時に重々しく開いた。
扉の両サイドには衛視が立って扉を開けていた。
ヘンリーは部屋の中へ静々と足を踏み入れた。
目の前には国王陛下。長テーブルをはさんで左右に元老院の貴族が三名ずつ座っていた。
その長テーブルの前に立ったヘンリーは、直立不動でこう述べた。
「ギルド・シュレンツェン。ギルドマスター ヘンリー・グラフ・フォン・ギルマン。お呼びにより参上つかまつる」
「よく来た。伯爵。着席するが良い」
良く響き通る声でフィリップ・シェーンハウゼン侯爵が声を掛けた。
「は!」
ヘンリーは許しを得て長テーブルの前に置かれた椅子に座った。
正面の玉座には国王オットー・ウオンジが座っていた。
シェーンハウゼン侯爵は続けて
「現状の異世界からの転移者の件について卿の存念を述べよ」
とヘンリーの意見を求めた。
「は! 謹んで申し上げます。今我が王国、いやこの世界は現在も異世界からの転移者は止まるところを知らず増え続けております。お蔭で我が王国だけでなく、この世界全体の魔物という魔物が駆逐されつつあります」
「おお~」
と元老院の議員六人からどよめきが起きた。
それを確認してからヘンリーは話を続けた。
「それはそれで喜ばしい事ではありますが、魔物は減っているのに転移者は相変わらず増え続けており、転移してきた彼らは冒険者としてこの世界を旅する事になります。彼ら冒険者は魔獣を狩る事がその生業であります。言ってしまえば全て駆逐され魔獣がいなくなると、彼らの生計が成り立たなくなるのであります。そうすると、どうなるのか?」
ここでヘンリーは一息つき元老院の貴族の顔を眺めた。




