帰還
イツキは一気にギルドに帰ってきた。
まだ夕方だった。
その足で自分の部屋に帰る前にギルマスのヘンリーの部屋へ向かった。
ギルド本部の最上階にギルドマスターヘンリー・グルマンの部屋はある。
ノックをしてイツキは入った。
入ると入口の壁際の秘書席に座っていたリンダが立ち上がり
「お帰りなさい。イツキ」
と声を掛けた。
リンダは長い黒髪が綺麗な女性で耳が猫耳になっている。
そう彼女はキャットピープル。猫耳族だ。その猫耳がぴくぴく動く姿が可愛い。
「ただいま。リンダ。ギルマスは居るかな?」
イツキはヘンリーの部屋の扉を目で指しながらリンダに聞いた。
ヘンリーの部屋は秘書室の奥にあった。
「ええ、おられます。少しお待ちください」
そう言うとリンダはヘンリーの部屋へ猫耳をぴくぴくさせながらノックして入っていった。
しばらくして出てくると
「どうぞ」
と言ってイツキをギルドマスターの部屋へ案内した。
「お帰り、イツキ。どうだった。会えたか?」
ギルドマスターともなると部屋も広めだ。少なくともイツキの部屋の倍はありそうだ。
入り口を入って正面奥、窓を背にヘンリーのデスクがあり、その前に応接セットが置かれていた。
デスクに座っていたヘンリーは立ち上がりイツキを応接セットのソファーに案内して、自分も向かいの席に座った。
「オーフェンには会えたよ。全然問題は無かった。賛成だって」
「おお、そうかぁ。魔王には何のデメリットも無い話だもんな」
ヘンリーは素直に喜んだ。
「まあね。でも本当に驚いていたよ。こんな話が来るとは思わなかったって……しかし、魔王オーフェンも現状を嘆いていたからね。思った以上に魔物は居なかったよ。気配すらほとんど感じなかった。僕も驚いたわ」
「やはりそうか。兎に角、あの魔王オーフェンが了解したんだ。ロンタイルの魔族は納得するだろう。少なくとも我が国の魔族と魔獣はこれから増えるな」
ノックの音がしてリンダが猫耳をぴくぴくさせながら珈琲を持ってきた。
「リンダ、ありがとう」
イツキはこの猫耳がぴくぴくするのがお気に入りだ。だからリンダには日頃から優しい。
リンダは笑いながら
「ごゆっくり」
と言って退室した。
「ところで、本当に魔人魔獣保護区って作る気か?」
イツキは聞いた。
「作るよ」
ヘンリーは明快に答えた。
「ダリアン山脈周辺は一番の狩場だからな。そうするとこの国では大物はほとんど狙えなくなるな……という事は……」
イツキはこれからどうなるのかを想像しながら聞いた。
「そう。冒険者は隣のカラク王国に行って貰う。テミン王国はうちと歩調を合わすだろうからこの大陸の東と北はほぼ保護区になると思ってい構わないだろう」
「期間は?」
「一年ぐらいは様子を見たいな」
「そうかぁ」
「ナロワ王国の転移者は、案外魔族を選ぶかもな。僕も勧めるけど……」
「名キャリアコンサルタントのイツキ先生がお勧めするんだから大丈夫だろう。期待しているよ」
とヘンリーは笑いながらイツキに言った。
「そう言われてもねえ」
とイツキは答えるしかなかった。
「それよりも元老院は大丈夫なのか?」
「ああ、それは大丈夫だ。ただ、またイツキには他の魔王にも会いに行って貰うかもしれないが……」
「ええ? またぁ??……全部が全部オーフェンみたいに好意的な魔王ばかりじゃないぞぉ。面倒臭いのも居るんだぞぉ……」
イツキは思わず大きな声を上げた。
「いや、全部行ってくれなんて言ってない。もしかしたら他の魔王もあと二~三人は会いに行って貰うかもしれないって事だよ」
ヘンリーは焦ってイツキをなだめた。




