魔王の了解
「取り敢えずどっかの魔王討伐をコンプリートした冒険者は百人はいるんじゃないかな? 正確な数字までは知らないが……」
「そんなにいるのか?」
オーフェンとサルバも同時に驚いたようだった。
「その数千倍はあんたたちに殺られているか、エタの呪いでいなくなっているかだな」
「そうかぁ……そんなに沢山の勇者がいるのかぁ……。そうすると同じように結構多くの魔王が誕生する可能性もある訳だな」
オーフェンは今まで屠って来た冒険者の数には何の興味もなかったが、勇者の数には驚いたようだ。
「まあ、単純に考えたらそういう可能性もあるだろうな。あんたのライバルが沢山できるかもね」
イツキはオーフェンに軽口をたたいた。
「ふん! そんな奴らがワシのライバルなんかになるものか!」
「ま、なんにせよ、魔族の眷属が増えるのはいい事ですな」
サルバが横から口を挟んだ。
「その前に言っておくけど、ちゃんと訓練とかするんだろうな。騙して食ったりするなよ」
イツキはサルバを軽く睨みながら牽制した。
「そんな事はしませんな。折角の眷属候補をそんなくだらん事には使いませんな」
サルバはこの件に関しては賛成のようだ。
「それもそうか」
イツキは納得した。
「黒騎士とか黒魔導士とかもギルドではちゃんと勧めてくれるんだろうな」
サルバはイツキに問い詰めるように聞いた。
「それは勿論、勧めるさ。その為に今回の魔族への職種追加はあるんだからな……と言うか最低でも半分は魔族の方に行って貰いたい。でないと何のために作ったのか分からなくなる」
とイツキは応えた。
「それもそうですな」
サルバは納得したように笑みを浮かべた。
「じゃあ、この話はギルドマスターに『ロンタイルの魔王オーフェンは了承した』と伝えて良いんだな」
「よかろう。ギルマスにそう伝えるが良い」
オーフェンは胸を反って答えた。
――なんかオーフェンは嬉しそうだな――
魔王といえども古い付き合いなのでイツキも多少は情が移っている。魔王の嬉しそうな顔はイツキも実は嬉しかったりする。
「了解! 帰ったらヘンリーにそう伝えるよ。まあ、なんにせよ。オーフェンが了解してくれて助かったよ。ヘンリーも喜ぶと思うよ」
「しかしギルドでそんな勝手な事を国王は許さんだろう?」
オーフェンはギルドの事が気にかかるようだ。
「う~ん。どうなんだろう……。ギルドで取り扱う職種を何にするか決めるのは、各ギルドの自由だからなあ。面白い職種があるギルドに人は集まる傾向にもあるし……人気職種を生み出すギルドは結構繁盛しているよ。だから国王もそんなに言わないんじゃないかな?」
イツキは敢えて、この話が国王から出ているとは言わなかった。
そういうのは最後の最後で言えば良いと思っていた。
「この前行った国のギルドではスーパースターなんて職種も見たよ。歌って踊ってなんぼっていう職種。うちでは吟遊詩人みたいな仕事なんだろうな」
「そんなものがあるのか?」
オーフェンは驚いた。
「まあね。もし次に転職する事があったらそれにしようかな? 最初からはそれは絶対に嫌だけど……」
「なぜ最初からはダメなんじゃ? モテそうな職種じゃないか?」
「その前に、魔獣に殺られるよ。弱すぎて」
「そうか、そうかぁ。なる程のぉ。弱くなったお主とは、是非一戦交えたいものだわ。わはは」
とオーフェンは笑った。
これだけ見ているとオーフェンがこの大陸で一番恐れられる魔王とは誰も思わないだろう。
日常の魔王とは案外こんなものかも知れない。
イツキはオーフェンと会う度に魔王というモノの本質に触れていっている気がしていた。
イツキもオーフェンが嫌いではない。
もしかしたら転移者が魔族になったら案外うまくやっていけるのではないかとも思い出していた。
そう思いながらイツキも
「一戦は遠慮しておくよ」
と言って笑った。
そして
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
とイツキは席を立った。
「もう帰るのか? 泊まっていけば良いのに」
オーフェンは名残惜しそうにイツキを引き止めた。
「そうも言ってられないんだよ、何かと人使いの荒いギルドだからな。今度は魔女とか堕天使とかがいる時に来るよ。おっさん連中に囲まれて飯食ってもねえ」
「そうか、そうか。またゆっくり来るがよい。その時は冥府の神ハースデの神官でも呼んでイツキの相手でもさせよう」
とオーフェンは笑いながら応えた。
「その時はよろしく頼むよ」
そう言うとイツキはテレポーテーションの呪文を唱え、オーフェンとサルバの前から消えた。
オーフェンは暫くその跡をじっと見ていたがやがて目を上げ
「イツキがこの席に座れば全てが片付くじゃないか……」
と自分の座っている玉座に目を落として呟いた。




