確信
「う~ん、どうだろう。実はつい最近も魔王になりたいって奴は居たけどね」
「なんだと! 人間のくせに魔王になりたいだと!! 身の程知らずめが!!」
魔王という言葉が気に入らなかったのかオーフェンは大きな声で憤った。
広間の柱が震えた。
これがいつも通りなら、この広間に呼応して一気に数え切れない魔物たちが現れただろう……しかし一匹も現れなかった。
広間は相変わらず静かだった。響くのはオーフェンの怒鳴り声だけだった。
そしてここに居るのは魔王と副官のサルバとイツキだけだった。
この情景だけ見ればここは魔王の宮殿には見えないだろう。
「まあ、本人は魔王になるのは大変そうだからって結局は辞退したけどね」
イツキはこの状況に寂しさを少し覚えながら答えた。
「ふん! なんだ、根性の無い奴め!」
オーフェンは薄笑いを浮かべた。
「オーフェン、どうする? 転生者をここで魔王の眷属として受け入れるのか? 受け入れるのであれば、うちのギルドで新しい職種として黒騎士とか黒魔道士とか取り扱うよ」
イツキは話しを本題に持っていった。
「しかし、何故ギルドは魔族の為にそんな事をするのだ? 我々が居なくなった方が世界は平和になって良いのではないか?」
オーフェンは沸き上がった疑問をイツキに尋ねた。
「普通ならね」
「普通なら?」
オーフェンは聞き直した。
「そう、今は異世界からどんどん人が転移してくる。これが止まらない。この転移者がほとんど冒険者になるもんだからどんどん魔獣や魔族を駆逐していく。そこまでは良いんだが、駆逐した後もどんどんやって来る。冒険者は増えるが魔獣は居ない……それが今の現状。このまま行くと……」
「冒険者は他の職業に転職せざるを得なくなる……つまり仕事の取り合いが始まり、仕事に就けなかったものがあぶれる事になる。それ以外にも何もしない無職の転移者がこの世界に溢れるという事だな」
とオーフェンが言葉を継いだ。
「その通り。流石魔王様だわ。人が不幸になる仕組みは良く分かってらっしゃる。だから、そうなる前に、転生者が冒険者以外にも選ぶ職種として魔人系の職種も作ろうか? という話になったんだよ」
「なるほど……」
それを聞いてオーフェンは考えている。
――なるほど、理屈は通っている。確かにそうだろう。今の状態で、このまま転生者が増えると、その通りになる。それはギルドでなく、国王も避けたいと思っているだろう。
これでイツキが来た理由とギルドが魔人系の職種に手を出す理由は分かった。
魔族系の職種を希望する転移者をワシの眷属にするのはいい話だ。これまでも冒険者を甘い話で釣って我が眷属にした事は何度もある。ほとんどが使いっぱしりにしかならんかったが……。
しかし今度はギルドが紹介する職業だ。経験値もキャリアも上がって行くと最後は魔王か……そこまで冒険者どもに倒されなければの話だが……まあ、今までよりは使える奴も出てこよう。
ふふ……それはそれで面白い……。
魔族が増えて困ることは何もない。
そんな事は考えるまでもない。――
この話に裏はないと魔王オーフェンは確信した。
――だが、本当に異世界からやって来た奴らが、魔人なんかになりたがるだろうか?
少しは人間に対して居心地のいい組織にしなけりゃならんかもな。
人にやさしい魔王になるか……くくっ――
オーフェンの口元が緩んでシニカルな笑みがこぼれた。
――後は黒魔導士とか黒騎士などは強力なチートを付けてやれば、案外転移者を受け入れても使い物になるかもしれん。
おお、黒騎士団による魔王近衛師団・暗黒槍騎士団の復活だ!
それは魅力的だ。――
ここまで考えてからオーフェンは口を開いた。
「イツキ、今この世界には勇者と言われる、完遂者は何人いる?」




