イツキの憂鬱
「だから安心して魔王に話をしに行って欲しい。頼む、イツキ」
とヘンリーは頭を下げた。
「はあ」
――冒険し過ぎるのも問題だったな――
イツキは今までの冒険で、魔王を退治しまくっていた事を少し後悔した。
「そう言えば、つい最近オルモンの深き場所の魔獣の皆さんを虐殺しにしたそうだな」
とヘンリーが思い出したように言った。
――ものには言い方ってものがあるだろう――
「いや、あれは仕方なく……ってショッカーのみなさんじゃないんだから……」
とイツキは少しムカつきながら応えた。
「まさかスライムは居なかっただろうな……絶滅危惧種のスライムは……」
とヘンリーはイツキを睨んで言った。
「居なかったと思います……ってなんで魔獣退治してつめられなきゃならんのだ?」
とイツキは反論した。
「それ程、現状は切羽詰っているという事だ。だから、イツキ。頼む」
と言ってヘンリーは頭を下げた。
「頼むって言われても……まあ、取り敢えずロンタイルの魔王には聞いてみます。この頃、暇だって言っていたので」
「そうか! 行ってくれるか! 頼んだぞ!」
と一気にヘンリーの表情が明るくなった。
それに比べて
「はぁ……」
とため息をつくぐらいイツキは暗い表情になった。面倒事を押し付けられて意気消沈しているのが誰の目にも明らかだった。
「あ、それからロンタイルの魔王に手土産は忘れないようにな。領収書はもらっておいてくれよ。この頃、経理がウルサイからな」
そんな事には一切意に介さないが如く、ヘンリーはイツキに細かい指示を出した。
「世も末だねえ……」
とイツキは心の底から嘆いた。
その日仕事が済むとイツキはギルドから自分の家に寄り道もせずにまっすぐ戻ってきた。
ギルドから徒歩二十分程度の、街の中心部から少し離れた山際にある小さな家だった。
通勤はいつも散歩がてらに歩いて往復するのだが、今日は足取りが心なしか重かった。
「今からオーフェンねえ…折角、ギルドに帰って来たというのに……なんでわざわざ魔王になんか会いに行かなきゃならんのだ?」
「それも手土産を持って……」
流石に今日は何もやりたくない気分だった。
「行くのは明日だな。今日は寝る。ワイン飲みすぎたなボク」
とか言いながらイツキは新聞も読まずにさっさと寝てしまった。
翌朝目が覚めたら完全に忘れた事にしようと思いながら……。




