情報
「それよりも、今日はお前に一つ情報を授けに来てやったのさ」
とシュウは言った。
「情報?」
イツキは怪訝な顔で聞き返した。
「そうだ。お前も気が付いていると思うが、この頃、あっちの世界からこっちへ、ゴキブリのごとくヒキニートが湧いてきているだろう?」
「それは言われなくても分かっている。転移者のお前がそれを言うか?」
どうやらシュウもイツキ同様転移者だったようだ。
「やっぱり気が付いていたか……ま、お前が知らんわけ無かったな。じゃあ、聞くがそのゴキブリのように湧きまくった転移者や転生者たちは何をしている?」
「今日も明るく、モンスター退治と言う名の冒険をしているんじゃないのか?」
「そう思うか?」
「え? 違うのか?」
イツキは驚いたような表情を見せた。
「やっぱりそうか……そこまではまだお前も気が付いていないのか?」
「なんだ? 冒険者にも勇者にも成らずに何か他の楽しい事でもやっているのか?」
「違う違う」
とシュウは顔の前で手を振ってイツキの質問を否定した。
「お前、この頃ギルドのクエスト依頼書を見てないだろう?」
「そう言われてみれば、この頃掲示板を見てないなぁ……」
「本当にデスクワークが板についてきたな」
と少し侮蔑が入った目でシュウは言った。
「悪かったな。で、依頼書が何だ?」
「魔獣退治の依頼が激減しているんだよ。それに比べて護衛とか盗賊退治の依頼が増えている……」
「本当か?」
とイツキは聞き返した。
「こんな噓をついてどうする?」
「それもそうだな」
とイツキは納得した。
「なんでだ?」
「さっきお前も言っただろう? あっちの世界から転移者がやってきて魔獣を狩りまくっているって……おかげで魔獣の数が激減したと……」
「え? それが原因か?」
イツキは更に驚いたようにまた聞き返した。
「判らん。ただそういう噂になりかけているという事だ」
シュウは同じ口調で淡々と事実を語っていた。
「よくそんな事に気が付いたな」
「正直に言うと気が付いたのは俺じゃない」
とシュウは首を振った。
「誰だ?」
「師匠だ」
「オヤジ? 師匠か?」
「ああ」
シュウが口にした師匠とはイツキとシュウの共通する師匠でこの世界では『シド』と名乗り、世間からは『老師シド』と呼ばれていた。
歳はイツキやシュウとは親子ほど離れていた。
彼ら二人がこの世界に来てしばらくしてから転移してきた男だが、その時からすでも剣術の腕はSランクであり、冒険者も全く歯が立たない腕前のチート持ちだった。
それでいて職業が『賢者』という魔法も駆使できる変わった経歴の持ち主でもあった。
ふとした縁で彼ら二人はこのシドの弟子となって旅をした事があった。
イツキとシュウの剣術の腕前はこの師匠の教えによるものだった。それ以外にもシドはこの世界で必要な知識を二人に授けた。年の功なのかシドは知識が豊富だった。それを惜しげもなく二人に教えた。
「そうかぁ……オヤジがそう言ったのか……という事はオヤジに会ったのか?」
「ああ、王宮に忍び込もうとしたら捕まった」
「何をやっとるんだ? お前は?」
とイツキは呆れたように言った。
「いや、なに……どこぞの貴族に呼び出されたから王宮に向かったんだが、考えてもみろよ。俺に対する依頼だぞ、面と向かって俺が宮殿の正面玄関から入れるわけはないだろう?」
「確かに……暗殺の依頼を受けるのに、真昼間の正面玄関から名乗りを上げて入るバカなアサシンはおらんわな」
とイツキは納得したように何度も頷いた。
「当たり前だ。俺を何だと思っている。まあいい。兎に角、約束の場所に辿り着く前に待ち受けていたのが師匠だった。何故俺が依頼を受けたのを知ったのかは不明だが、俺は師匠に捕まった」
「それで?」
「こんこんと説教された」
と言うとシュウは肩を落とした。
実はシューはシドから『まだこんな商売をしているのか!』と説教されていた。




