ヘンリーの愚痴
「うん。この頃、冒険者がね……いや、冒険者になるのが……ほとんど異世界からの転入者なんだよね」
「そうみたいですね」
「……知っていたのか……と言うか、今あっちでブームにでもなっているのか? やたらと多くの転移者がやって来るとは思わないか?……それもヒキニートばかり。
そんな奴らが、ここに来たらギルドに登録即冒険者……そして勇者だぞ? そんな事有り得るか?……この頃、少なくなったとはいえ変な強力なチートも身に着けてくるもんだから、その辺の魔獣なんて太刀打ちできない。もう、この街周辺の森とか洞窟とかそいつらの狩場だ」
――今日のギルドマスターは熱い。機嫌が良かったんじゃなかったのか……――
イツキはヘンリーの本意が掴み切れずに戸惑っていた。
「更にこいつらは何故かモテる。貴族の娘をたぶらかし、エルフの女が周りを侍り。ゴスロリの女神官に言い寄られたりハーレム状態じゃないか!!……兎に角、羨ま……いや、何か腹立たしい……」
ヘンリーは握りしめたこぶしを振り回して言った。声も大きくなっていた。
「他所のギルドはどうなんですか? そこもやはり多いんですか?」
イツキは敢えて冷静に聞いた。
「ここ程ではないが、他も結構来るみたいだ。どこに行ってもハーレム作ってやがる……あ~鬱陶しい!!」
ヘンリーの感情は高ぶったままだ。
「まあまあ……確かに本当に流行っているのかもね。これだけやって来るという事はそういう事なんでしょう。でも良いじゃないですか。冒険者が増えるという事はギルドが潤うって事なんだから……。
それに僕はお姉さんを侍らかしたりはしてませんからね」
そういうとイツキはパンをひとかけら口の中に放り込んだ。
「イツキの事は分っている。しかしこのまま転移者が増え続けると、いつかとんでもない事になりそうな気がしてならない……」
ヘンリーはそう呟くとテーブルにあったイツキのワイングラスに手を伸ばすと、それを一気に飲み干した。
「あ、俺のワインが……」
とイツキが情けない声をあげるとヘンリーは
「俺も飲む!」
と叫んでホール係を呼ぶと、自分にもワイングラスと軽い食事を持ってくるように注文した。
イツキはヘンリーのワイングラスに自分のボトルの赤ワインを注いだ。
「ありがとう」
そういうとヘンリーはグラスの赤ワインを一気に飲んだ。
相当鬱憤が溜まっている様だった。
――今日はヘンリーの愚痴に付き合ってやるか――
とイツキは諦めた。
と以上が昨晩あった出来事だった。




