仕事選び
「済みません」
ヨッシーは縮こまって謝った。
「いや、全然構わないんだけど……男の夢はそれ位じゃないとな。それじゃあ聞くけど、なんか隠された力とかこの世界に転移して来て備わった最強のチートな力とかない?」
ヨッシーの答えは
「鼻から入れたうどんを口から出せる位ですか……友達には最強に受けましたが……」
だった。
「そんな力は要らん!! それは力でも何でもない!! 単なるかくし芸だ!! それに汚い! 僕が聞きたいのは、モンスターを一撃で即死に至らしめる力とか無詠唱魔法とか、そんなもんを手に入れた覚えはないか? という事を聞いているんだけど」
「ないです……」
ヨッシーは消え入りそうな声で答えた。
「ここに来る前に神様とか女神とかに会わなかった?」
たたみかけるように椅子から身を起こしてイツキは聞いた。
「会ってないです」
「ふん。この頃、奴らも手を抜いているのか?」
と憤った様な表情でイツキは椅子に身体を沈めた。
「仕方ない。地道に君に似合う仕事を探そうか……、取りあえず視点を変えて、何か運動とかしていた?」
イツキはしんみりとした声でヨッシーに聞いた。
「はい。小学校時代から剣道をやってました……」
「ほほ~。なんだぁ、良い特技あるじゃん。それは良いねえ……段とか持っているの?」
イツキの表情が少し明るくなった。
「はい。二段です」
「ほぉ、段持ちかぁ。それは更に凄いじゃん……じゃあ、剣士がお勧めかな」
とイツキは安堵のため息をついた。
このまま何の取り得も無かったらどうしよかと心配だったが、少なくとも剣士にはなれる。
「やっぱりそうなりますねえ……」
「この魔法剣士というのは?」
ヨッシーは目についた職種を口にした。
「魔法剣士かぁ……。ヨッシーは目が高い。これは頭が結構良くないと出来ないけど……勉強得意だった?」
「いえ。勉強せずに剣道ばかりしてましたけど……」
「そうだろうねえ……まあ、出来ない事も無いだろうけど」
「それじゃあ、戦士とかは?」
ヨッシーは聞いた。
「おお、良いのを見つけたねえ……いつも最前線で戦う勇者だ。ドラゴンにだって立ち向かう。みんなをモンスターから守るヒーローだ。やるか?!」
「良いですね。僕にできますかね?」
とヨッシーは少し自信を取り戻したように明るい表情で聞いた。
「うん。最前列の前衛だからね。相手の攻撃はモロに受けるからね。そういう訳で死亡率高いねえ……。やってみる? コロッと死ねるよ。まさにピンピンコロリだよ」
「良いです。遠慮します。そんなピンピンコロリはお断りです」
とヨッシーは全力で断った。
「そうかぁ。まあ、その方が無難だな。ここでは死んだら本当に死ぬからな。RPGとは違うのはそこだ……たまに何度死んでも生き返る奴もいるようだが、普通は死んだらそのまま死ぬ」
「それじゃぁ、これは……」
今度は目についた職種を指さした。
「どれ? ああ忍者かぁ……。それは今からやるにはきついかもねえ……飛んだり跳ねたり水の中に1日いたりとちょいと修行するよ。その代わり水の上を歩けたりする能力が身に付くけど……。これも頭が良くないとダメだな。薬草の知識とかいるし……生物とか化学とか得意だった?」
「いえ、良いです。やっぱり剣士にします」
ヨッシーは首を激しく振った。残念ながら彼は文系だった。生物・化学は特に苦手だった。
「そうする? それの方が良いと思うな。後でジョブチェンジも出来るし」
「そうなんですか?」
ヨッシーは驚いたように声を上げた。