魔王になりたい理由
気持ちを落ち着かせるように自分に言い聞かせてから
「それで、なんで魔王なんですか?」
とイツキは更に聞いた。
「なんとなく。働かなくて良さそうだったから……」
――もう死んで良いよ――
「それはないですな!」
とイツキは即座に断言した。
そして
――そんな事だろうと思った――
とイツキは心の底から呆れかえっていた。
「働かなくて良いかもしれませんが、冒険者や勇者と闘わなければなりませんよ。弱いままだとイチコロで負けますよ。死にますよ」
とイツキが言うと、ヒキニートは思いっきり首を振って
「そんな目に遭うのですか?」
と言った。
――この男は何を考えてここに来たんだ?――
「ここへはママに言われてやって来た……とか?」
イツキの瞳に侮蔑の色が浮かび出した。
「はい」
それにはこの男は気づいてはいないようだった。
――クソ! バカ親め! なにを親の責任放棄しているんだ――
とイツキは腹の底から腹が立ってきていた。
「まあ、良いです。今から魔人の修行できますか?」
イツキはその憤りは表に出さずに、表面上は平静を装いながら聞いた。
「修行するんですか……」
「魔王になりたいんでしょう? 強くならないと殺されますよ」
と言いながらこのヒキニートがそれを受け入れたらどうしようかと少し心配していた。
「はぁ……」
男は力なく返事を返した。
「だったら修行しないとなれないですよ。もうポテトチップ食べている場合じゃなくなりますよ」
イツキはもうこのヒキニートの日々の日常は、カウチポテトの権化のような生活が続いていると確信していた。
「それは嫌だ」
イツキの想像は間違っていなかったようだ。ヒキニートは即座に首を振った。
「好きなアニメも見れないですよ」
更にイツキは畳みかける。(一応言っておくがこの世界にアニメなど無い)
「それは死んだほうがましだ」
男の声に感情が乗った。(何故この話に乗れる?)
「だったらさっさと死になさい……と言うか他の仕事を探しなさい」
二人の間にまたもや沈黙が流れた。
先に口を開いたのはやはりイツキだった。
「ふぅ、では魔王の次に就きたい職種は?」
とイツキは一息ついて自分を落ち着かせてから聞いた。
「冒険者」
男はぽつりとひとこと答えた。
「冒険者にも色々ありますが……」
「女の子にモテる奴」
――お前、一度死ね――
イツキは一度こいつの首を絞めてやろうかと本気で思い始めていた。
しかしそれは表情には微塵も浮かべずに
「モテる奴ですかぁ……やっぱり騎士ですかねえ……それか剣士」
と平静を装って応えた。
「後は吟遊詩人とか……これなんか結構女の子にモテるかも……」
とイツキは思いついた職業を口にした。
「じゃあ、それ」
と男はその言葉に食いついた。
「え?」
イツキは驚いたように声を上げた。
「それ。吟遊詩人」
男は表情を変えずに言った。
「楽器弾けます?」
イツキは首をかしげながら確認するように聞いた。
「無理!」
と男は即答した。
「歌は得意ですか?」
イツキは質問を変えて違う角度から聞いてみた。
「まぁまぁかな」
男は自信ありげに答えた。
「アニソンだけじゃあダメですよ」
「え?」
「歴史にも詳しくなければダメですよ」
「なにそれ」
「なんでもいいですけど、さっきからタメ口なんですが……」
とイツキは何故かムカついてきて、思わずそれが口に出た。
「あ、済みません」
男は慌てて謝った。




