ベルべとの戦い
この宮殿は大広間には連なるもう一つの大広間を持っていた。
そこにあのエルフの女は居るはずだ。
イツキとイリアンは隣の大広間へ続く扉を押して中に入った。
扉は重々しい音を響かせて開いた。
広間の真ん中にエルフの女が横たわっていた。
イツキは駆け寄り抱き起した。
「大丈夫か? まだ生きているか?」
気を失っていたようなそのエルフの女はイツキの言葉で気が付いた様だ。
「ここは?」
「魔王ベルベの地下宮殿だ。大丈夫か?」
イツキはもう一度具合を聞いた。
「はい。大丈夫です。あなたは?」
「エルフの村で門前払いを食らった旅の者だ。気にしないで良い。それよりもベルベはどこに居るか知らないか?」
「知りません。気が付いたらここに居ました」
「そうかぁ。君の名は?」
「ティアナです」
「そうか、ティアナよく頑張った。今からお家へ帰ろう」
そういってイツキが周りを見るとイリアンの姿が消えていた。
「どこに行ったイリアン!」
とイツキが叫ぶと、天井からおどろおどろしい声で
「どこかの虫が余の宮殿に入り込んで居るようじゃのぉ……何者じゃ」
と広間に響く声でイツキに聞いてきた。
「この耳を見てわからんか? エルフの勇者に決まっているだろうが」
とイツキは短い耳を大袈裟に見せた。
「ふん! たわけた事を……」
その声がするやいなや炎の柱が天井からイツキとティアラめがけて降って来た。
イツキはティアラを抱きかかえたまま、横っ飛びに避けるとティアラを柱の陰に隠して広場の真ん中に向かった。
「姿を見せろベルベ! 冗談の分からん奴だ!」
「ほほ~。儂の名を知っておるとは感心じゃ。虫けらの名前も聞いておこうか?」
「冥途の土産に覚えといてもらおう。世界最強の格闘家イツキだ」
そう言いながらイツキは少し恥ずかしかった。
こういう場面でしか言えないセリフだか、言うとなんだか恥ずかしい。いや、とっても恥ずかしい。後悔先に立たずとはよく言った。
――勢いて怖いな。雰囲気に飲まれたわ――
「ふん!聞いた事も無いわ。聞くだけ無駄だったな」
そういうと魔王ベルベは姿を現した。
やはりこいつもでかい。イツキの三倍ぐらいの大きさはあるだろうか…。
――ここのボスキャラはでかい奴ばっかりだな――
イツキは辟易としてきた。
自分が本当に虫けらになった気になってしまった。
しかし気を取り直して、
「このエルフの娘は貰って帰るぞ。お前もおとなしく冥府に帰れ!」
と叫んだ。
「小賢しいわ」
と言ってベルベの大きな右手が飛んできた。
それを後ろに飛びのいて避け、返す反撃で一気に攻め込んで右腕を蹴り上げた。
「ぐ!!」
とベルベは堪えたように見えたが、すぐさまその右腕が裏拳でまた飛んできた。
これもかろうじて避けたイツキだったが、あまりの体格差に攻めあぐんでいた。
ベルベは巨大な腕でイツキを払いのけてきた。飛んで避けたイツキは持っていた水魔法属性の球を二つほど投げつけた。
それはベルベの顔と胸を直撃した。
「ぐわ!!」
さっきとは明らかに違う効果があったような反応だった。そこをイツキは一気に襲いかかった。
集中的に右足を狙い動きを止めた。ベルベの右足のダメージは大きそうだ。そこを今度は左足を狙って蹴りを入れた瞬間、ベルベの右手がイツキを直撃した。
どーんと壁にたたきつけられたイツキは一瞬息が出来なくなって苦しんだ。
そこをまだ動きを止められていない左足の蹴りが更にイツキを直撃した。
今度は蹴り飛ばされて柱に体をぶつけて床に倒れ込んだ。




