再建
イツキと族長とクルスの三人は森の中を馬を走らせた。
イツキは『絨毯の方が安全だったか?』とも思ったが、実際に陸路も確認したかったので馬で行く事にした。
思た以上に道は崩れていないようだった。
暫く馬を走らせると村に着いた……いや、それは『村がかつてあった場所』になっていた。
シャヴォン湖の主の予言通り、村は崩れた土砂の下に埋まっていた。
三人は馬上からそれを眺めるとため息をついた。
「これは酷い……」
山がそのまま村に滑り込んできたようだ。
そこにあるのは大量の土砂と倒れた木々だった。跡形もなく村は消え去っていた。
「シャヴォン湖の主のお陰で助かった」
族長はもしかして村は何とか無事で残っているかもしれないと微かな望みも持っていたが、それはこの惨状で無残にも打ち砕かれた。
しかし、オルクは村長として村人全員を無事に避難させる事が出来たので、職責をなんとか果たせた安堵感も同時に感じていた。
「おやっさん。行きましょう」
イツキは族長を促し村人たちの元へ帰る事にした。
「イツキ、本当にお前が来てくれなければ、我々は全滅か生き残ったとしても路頭に迷うしか無かった。本当にありがとう」
「何を言っているんですか、これからですよ。これからまた新しい村を作って、今まで通りの生活を続けるのですよ」
とイツキは手綱を捌きながら馬上で村長を励ました。
「そうですよ。我々も出来る限りお手伝いしますから」
とクルスも一緒に励ました。
族長はひとこと
「よろしく頼む」
と頭を下げた。
新しい村へ戻ると、村人は三人からの情報を聞きたがった。族長が見てきた現状をありのまま告げると、どよめきが走った。
しかし、村人は既に覚悟を決めていたのでそれ以上の動揺は無かった。
「さあ、これから村をまた造ろう」
と若いエルフを中心に村造りが始まった。
元々は狩猟民族。
元来木造の簡単な小屋がほとんどだ。あるいは大木の枝に小屋を乗せて家にしていたような生活環境だったので作り直すのは案外簡単だった。
その上、前もってイツキがシラネに建築資材も工兵に持ってこさせるように依頼していたので、エルフの小規模な村の再建には十分な資材と労力が揃っていた。
隊員とエルフが協力して家を建てている姿を見ながらクルスがイツキに聞いた。
「この状況をよく予想できましたねえ……分かっていたんですか?」
「いや。それは分からなかったよ。ただね。シャヴォン湖の主が意味もなくエルフに危害を加える事はないから、何かあるな…とは思ていたさ。
で、考えられる事の中で一番可能性があったのが、村が災害に見舞われる事だった。だから念のためにと思ったんだけど……まさかね……嫌な予感は当たるもんだな」
とイツキは苦笑いしながらクルスの顔を見た。
「いやぁ、それでも良く分かったなぁって思いますよ」
とクルスは改めてイツキの先見の明を褒めた。
「ま、この分ならあと二~三日で終わりそうだな。よろしく頼みますよ。クルス君」
「はい、頑張ります」
とクルスは答えると現場に戻って行った。
イツキが一人で作業を眺めていると後ろから
「イツキ」
と呼ぶ声がした。
イツキが振り向くとそこにティアナが立っていた。
「イツキ、もう帰るの?」
「そうだなぁ。あと二~三日で帰るかな」
「そんなに早く……」
「まあ、いつまでもあっちを空けたままにしておく訳にもいかないからね」
イツキはギルドの事務所も気になっていた。
もし新しい転生者が来たらマーサがイツキが帰ってくるまで上手く手配してくれているとは分かっていても、それはそれで気になる。
「そうかぁ……また寂しくなるわ」
「また来るよ。今度は何かあった時ではなくね」
ティアナは少し考えてから
「……イツキ。街の生活って楽しい?」
と聞いた。
「う~ん。どうだろう。僕らは慣れているから別に普通に楽しいけど、エルフは生活環境が違うからねえ……。うるさいだけかも……なんだ?ティアナは街に住みたいのか?」
「う、うん。イツキのいるところに行きたい。私はイツキに救われた身だから」




