ネーミングセンス
「イツキはパーティを組むのは久しぶりですか?」
とイリアンは優しい声で聞いた。
「そうですねえ。この頃、全然冒険をしてませんからねえ……と言うか今はキャリアコンサルタントですから……」
「そうなんですね」
「そうですよ。だから特技は”紹介状発行”とか”内定ゲット”とか、あと必殺技は”適正試験突破”なんておよそ戦いには関係ないものばかりですよ」
それを聞いてイリアンは微笑んだ。
「毎日、安穏とした生活を送って惰眠を貪っているだけなんですから……」
イツキはそう語ると通路の天井を見上げた。
「それにしてもこの部屋もやばいですね。通路はボロボロで崩れていないのが不思議なぐらいだし」
そう、薄明かりでは分かりにくいが壁には無数のひび割れが走っていた。
勿論そのひび割れは天井まで続いていた。
「誰も手入れをしていませんからね」
――これで地震が来たら崩れるわな――
「さて、そろそろ行きましょうか?」
そういうとイツキは立ち上がった。
二人は通路をまた歩き出した。
魔獣が様子を窺うだけで襲ってこない事が分かったので今度は早めに歩いた。
杖の先の魔法の明かりが通路を照らす。
急に通路が開けて広間に出た。
高い天井と石造りの巨象が飾ってある大広間でギリシアの神殿がそこに再現されたような大広間だった。
通路と違ってこの大広間は明るかった。
「昔はここにラスボスが居たんですけどねえ……」
イツキは高い天井を見上げながら懐かしそうにそういった。
「そうでしたか?ラスボスは次の広間では?」
「あ、まだ先はありましたっけ?」
「確かあったように思います」
イリアンは自信を持って答えた。
「そうですか……」
そう言うとイツキは大きな声で
「さっきから見ているのは分かっているんですけどね、退治してあげるからとっとと出てきたらどうですか? 次の部屋まで行くのは面倒なんでねえ」
と叫んだ。
しばらくすると周りから無数のモンスターが出てきて、二人は完全に囲まれた。
「あら、これは凄いですねえ……こんなにもここに住み着いていたとは……」
イツキは魔獣たちを見ても焦る事もなく
「それでは、今までに溜まりに溜まった家賃を回収させて貰いましょうか」
と呟いた。
モンスターたちはジリジリと輪を狭め二人に近づいてきた。
イツキは剣を抜き頭上に掲げ呪文を唱えた。
「秘技・溜まった家賃回収!」
そしてその剣をゆっくりと右斜めに下げた。その剣は炎に包まれイツキが剣を振ると炎は2人を囲んだモンスターの輪を目掛けて走った。
一気にモンスターのほとんどが消えた。
「これぐらいの攻撃に耐えられなくてどうするんですか? 魔獣の名が泣きますよ」
イツキは薄笑いを浮かべながら生き残った魔獣達を見下した。
そう。この程度の魔獣は今のイツキにとっては何ら障害とはならない。
「あの、イツキ。何でも良いんですけど、必殺技の名前ぐらいもうちょっと考えたらどうですか?」
イリアンはイツキの技にケチをつけた。
「え、ダメですか?」
焦ってイツキはイリアンの顔を見た。
「ちょっと……。なんか、うすうす『そう来るだろうな』とは思っていたけど…そのまんまとは……」
「そうですかぁ……」
そう言うとイツキは小走りに一匹の魔獣に向かい、上段から剣を振り下ろしながら
「秘技・内定取り消し!」
と叫んだ。
凄まじい光の中、魔獣は消滅した。
「だから、『秘技』ってなに?それなら黙って斬った方が……」
とイリアンは兎に角、技の名前が気に入らないようだった。




