イリアンからの伝言
イツキは出会った時の事を思い出していたが我に返り、
「分かりました。私は村人に、村を移れ! と言えば良いのですね?」
と応えた。
イリアンはイツキの答えに満足したように頷くと
「そうです。村人に避難するように伝えて欲しいのです」
と言った。
「しかし、これから彼らはどこに住めば?」
「この村から山裾を南東に行ったところの森にエルフ達がショーハンと呼ぶ小さな湖がります。その畔りを切り開くのがいいでしょう」
イリアンはその方向へ魔法の杖をかざして言った。
「分かりました。村人に伝えます。ところで山が崩れるのはいつですか?」
イリアンの話を聞きながらイツキは村人たちの事も気にかかっていた。
難を逃れた後、彼らは住むべき処も何もかも失ってしまう。
「明日にも起きましょう。そう、明日……この一帯は地震に見舞われます。それと同時にホロデの山は崩れます」
イリアンは悲しそうな顔をして凍り付いた村の方角に目をやった。
「は~。急ですねえ…ぎりぎりだなぁ。地底の王でも復活するんですか?」
イツキは呆れたような声で聞いた。
「そうではない……イツキが昔倒した炎の魔王の事は覚えてますか?」
イリアンは首を振ってから悲しそうな表情でイツキに聞いた。
「はい。覚えてますよ。最後はイリアンが湖の水を王宮にぶち込んで炎の力を抑えてくれてたので倒せた相手でしたが……」
「そう、その主が居なくなった宮殿に良からぬ者たちが住み始め、宮殿が荒れ放題になっていたのです。荒れた宮殿は崩壊するのが定め、世の常です」
「あれ? あの魔王はその後復活せずですか?」
「あまりにも経験のない名もない格闘家に仕留められたという事で復活は叶わなかったようです」
というとイリアンはまた首を振って悲しそうな表情を浮かべた。
「そんな事があるんですねえ」
イツキは苦笑いしながらも新たなこの世界の仕組みを知ったような気がした。
「ふ~ん。なるほどねぇ……そうですか……後任無しで荒れ放題ですか……。
地震で崩れて、その影響で山も崩れると……。で、今は魔物たちの住処ですか。そんな物騒なモンはさっさとなくなってしまえば良いんですけどね。
でも、崩壊した後にモンスターや魔獣が地上に出てきて村を襲うという事はないのでしょうか?」
イツキは頭に浮かんだ心配事をイリアンに尋ねた。
「ほとんどの魔獣は、その崩壊後に地上に出てくるでしょう。その時は私が村人を守ります」
「ふ~ん。そうかぁ……うじゃうじゃ余計なものが出て来そうですねえ……地震は明日でしたね。じゃあ、ついでに宮殿の魔獣をお掃除してきます」
イツキはそう言って剣をポンと右手で叩いた。
「イツキ。そんなに強い魔獣はいないと思いますが、一人では危険です。私も行きます」
「いや、僕一人で大丈夫でしょう。待っていて下さい」
「いえ。行きます。イツキ!そういうところは昔と全然変わっていませんね」
とイリアンは怒ったようにイツキを睨んだ。
イツキは諦めたように
「それではお願いします。イリアン様」
とお願いした。
――この人も昔から全然変わってないなあ――
イツキは彼女がイツキの事を心配しているのではなく、一緒に戦いたいだけだという事を良く分かっていた。流石にイツキがここの魔獣に倒される事があり得るとはイリアンも微塵も考えていなかった。
イデオ山とホロデ山の連なる峡谷にその宮殿へ続く通路の入口があった。
――オルモンの深き場所――
それがこの入口の呼び名だった。




