村に行こう
ティアナは兎に角早く村の現状を伝えようと、ここに来るまでの三日間飲まず食わずで来たらしい。
それは傷ついた弓と杖が物語っていた。
ここに来るまで何回モンスターに出会って死にそうになった事か……いくら弓の達人で魔法も使えると言っても所詮は戦闘経験の浅いエルフだ。森のモンスターに一人で挑んで勝てる訳はない。彼女はモンスターに見つからないように、一人で三日間一睡もせずに必死に走り抜けてきたのであろう。
よく無事でここに辿り着いたものだと改めてイツキは感心した。
――もう少しのんびりとさせてあげたいが――
とイツキが考えていたら、それを見透かしたようにティアナはイツキに言った。
「イツキ、そろそろ行きましょう。私は大丈夫。回復剤も持ったし、ここのおいしいビーフシチューも堪能したわ」
「そっかぁ……そうだな。よし行くか」
そういうとイツキも立ち上がった。
イツキの腰にはいつものヒノキの棒とは違って、黄金の剣がぶら下がっている。
そこには惰眠をむさぼる2匹の龍と無駄吠えする獅子が彫ってあった。
ギルドの外はまだ明るかった。
「暗くなってから出るのは嫌だからな」
とイツキは少しホッとした。
ギルドを出ると目の前に大きな黒い影が突っ立ていた。逆光で顔が良く見えない。
「イツキさん、黙って行くのは冷たいよなあ」
その声の主はシラネだった。
「ああ、団長さんか、毎日モンスターの”殺戮”ご苦労様です」
「いや、だからその言い方ではなく”退治”ですから……」
シラネは焦った。
「イツキさん、シャヴォンの龍を退治しに行くんでしょう? 一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ここに一人、心強い味方も居るし」
とイツキはティアナを見た。
ティアナを一瞥したシラネは笑いながら
「まあ、イツキの旦那が『大丈夫だ』っていうんなら大丈夫でしょうがね。もし人手が要る様ならいつでも連絡してください。準備だけはしておきます。
取り敢えず、うちのメンバーにはなるべくそちら方面に巡回するようにしておきますから」
と言った。
「ありがとう。でもシャヴォンの龍を退治しに行くわけではないからね」
そういうとイツキは右手を顎の下に持ってきて、少し考えてからシラネの耳元でなにか囁いた。
シラネは一瞬驚いたような顔をしたが直ぐに
「分かりました。じゃあ工兵も回しておきます」
と答えた。
「それと王宮にも一応言っておいてね。こっちは大した事無いと思うけど」
とイツキが言うと
「分かりました。伝えておきます」
シラネは敬礼して答えた。
「よろしく頼むよ。あ、ところでこの前、紹介したヨッシーは元気にやってる?」
とイツキは思い出したように聞いた。
「ああ、彼なら大丈夫です。頑張ってますよ。兎に角『防具が臭くないから良い』って喜んでモンスターを”皆殺し”してますよ」
「元剣道部だからねぇ……。でも”皆殺し”とはね…まあ、よろしく頼むよ」
イツキは笑いながらシラネと別れた。
「あの人は?」
とティアナがイツキに聞いた。
「ああ、あの人はここの自衛団の”モンスターなら見つけ次第皆殺し軍団”の団長ですよ。酷い人でしょう……」
とイツキは笑いながら答えた。
「さてと、時間がないので一気に行きますか?」
というとイツキは魔法の絨毯を呼び出した。
「え? イツキは魔法使えたの?」
「まあね、少しだけね。本当は筋斗雲を呼びたかったんだけどね。さ、乗って乗って」
――流石にサルにはなりたくないからな――
二人は絨毯に乗ると一気に空の上に駆け上がった。




