ギルドのレストラン
「彼女はオルモン村のエルフですか?」
マーサがイツキに聞いた。
「そうだ。ティアナはその村の村長の娘だ。俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃にティアナのお父さんに世話になった。俺を息子のように可愛がってくれた」
イツキは昔を思い出すようにゆっくりと語った。
「エルフが人を受け入れるなんて珍しいですね」
マーサが不思議そうな顔をして聞いた。
「まあな」
とイツキは軽く答えて
「そのオヤジが俺を呼んでいる。行かねばならんな……マーサ。暫くはこの事務所は休業だ。よろしく頼む」
とマーサに後の事を託した。
「分かったわ。留守番は任せて」
マーサは自分の胸を軽くたたいて笑った。
「それからティアナの事も頼む」
「なんで? 私も行く! 一緒に村に帰る!」
とティアナは叫んだ。
「ダメだ。その身体でどうする。ここでゆっくり休んでいろ。終わったらちゃんと迎えに来るから」
「嫌だ! 一緒に行く。イツキが連れて行ってくれないなら一人でも帰る」
またティアナ瞳は涙で一杯になった。もうすぐ零れそうだ。
イツキはその瞳を見るとティアナを説得する事を諦めた。
「分かったよ。一緒に帰ろう。ティアナ」
と優しく声を掛けた。
またティアナの瞳からは涙が零れた。
――どうもエルフの涙には勝てないな――
イツキは頭をかきながら立ち上がった。基本的にイツキは女の涙に弱い。
「ティアナ。その前に飯食っていこう。お前、何も食べてないだろう」
「はい。いただきます」
ティアナがここにきて初めて笑った。
事務所が一気に明るくなった。やはりエルフは妖精の末裔だ。
ギルドの受付の前のロビーはそのほとんどがレストランスペースになっている。
このスペースで、ここに集った冒険者達が飲み・食い・騒ぐのである。
そしてこの国の情報……いやこの世界の情報は、ここで口コミによって広がったり交換されたりもする。
今日も多くの冒険者で賑わっていた。
ギルドの受付に一番近い席に座った二人は、向かい合って軽い食事を始めた。
イツキはグラスに注がれたワインを飲みながらティアナから村の現状を聞いた。
「……と言う事は、朝起きて霧が晴れたらそこに白い龍が湖上に居たという訳だな」
とイツキがこれまでのティアナの話を確認するように聞いた。
「そう、それを長老のハシャドが見つけた」
そういうとティアナはビーフシチューにパンの切れ端を付けて食べた。
「ああ、早起きの爺さんね……全然変わらんな」
「そう。今でも村一番の早起きよ」
「そうか……。ハシャドの爺さんもたまげただろうな」
「うん。うちの家に飛んで来たわ」
とティアナは表情を緩めて話した。ティアナもイツキとこうやって話をしていくうちの落ち着きを取り戻しつつあった。
「そっかぁ。それにしても何故、あの白い龍が暴れるかな? あれはあの湖の主で村の守り神なんだよなぁ……」
とイツキは納得がいかない表情で言った。
「そう。昔からあの白い龍は村の守り神。そして静かに……いつも静かに皆を見守ってくれていた」
そういってティアナはワイングラスを口に運んだ。
「そうだなあ。夏はティアナ達は白い龍と一緒に湖で泳いでいたもんなぁ」
「そうそう。村の若い娘だけは遊んでくれる」
「女好きな主だな」
「かもしれないわ」
ティアナは笑った。
もう完全にいつものように落ち着きを取り戻したようだ。




