転移者は高校生
「はぁ?……異世界……ここは日本じゃないんですか?」
男は驚いたような表情で聞き返した。
「そう思うか?」
イツキはその質問には答えずにまた聞き返した。
「はい。言葉は通じますが、明らかに外国ですよねえ……訳が分からないです」
男はここに来るまでの事を思い出したながら答えた。ただまだ現状が理解しかねているようであった。
「他に何か気づいた事は?」
イツキは更に聞いた。何故か楽しそうだった。
「あ、恐竜を見ました。あれは何ですか? 首が一つしかないキングキドラみたいな……」
その男は自分で言っていながら信じられないという顔をしていた。
「それは恐竜では無くてドラゴン。ちなみにキングキドラも恐竜では無い。あれは怪獣」
――こうやって異世界転移ビギナーをおちょくるのは久しぶりだなぁ……――
とイツキは内心ほくそ笑みながらちょっと彼で遊んでいた。
今でこそ、この世界に当たり前のようにわんさかと転移者や転生者がやってくるが、イツキがこの世界に来た時は他に誰もいなかった。そしてイツキの事を誰一人相手にしてくれる人もいなかった。
異世界転生だとか転移で勇者なんて、この世界でも昔ばなしか神話の世界の話でしかなかった。
「まあ、はっきり言って君は日本からこの世界に転移してきたんだよ。多分、前の世界では君はトラックに轢かれた時点でお亡くなりになられてますな」
ここでイツキは、はっきりと教えた。
「ええ!! じゃあ、ここはあの世ですか?」
と彼は驚いて叫んだ。
「おいおい、声がでかい」
とイツキは言ってから口も元に人差し指を立てた。
「あ、済みません」
と男は謝った。
「君はRPGをやったことある?」
イツキは小声で聞いた。
「はい。有ります」
高校生の男も小声で応えた。
男は休みの日は毎日ヒキコモッてRPGをやっていた。
「そうかぁ。だったら説明しやすい。今君はそのRPGの中の世界に来たと思って貰えれば良い。それをあの世だというならここはあの世だな」
「ええ!!」
と言って男は口を押えた。流石に二度目の絶叫は男も避けたい様だった。
「そんな事が……」
「あるんだな、これが……」
イツキは何故か勝ち誇った顔をしながら応えた。
「何故、僕がここに……」
「そんな事は知らん。知らんが、俺も同じだ……気がついたらここへ転移していた」
とイツキは言った。
それを聞いて男は安心したのか、自分の立場を理解したのか涙を溜めて
「そうなんだ……あなたもここに転移してきたんだ……」
と全身の力が抜けたように肩を落とした。
「心配しなくて良いよ。今は君のようにここに転移・転生してくる人間が沢山いるよ。珍しくもなんともない」
とイツキは男を安心させるかの如く語り掛けた。
「ええ、そうなんですか?」
男は驚いたように顔を上げた。
「ああ、この頃、異世界に転移するのが流行りみたいで沢山来るよ。中には女神付きで転生してくる奴もいるし……何故か知らんが本当によく来るわ。
ま、大抵は転移の時に都合よく『最強のチート持ち』になったりするけど、この頃は弱いままだったりするな、どうせ沢山来すぎてネタが尽きたんだろう」
そう言ったイツキの口元には嘲笑的な笑が浮かんでいた。
「そうなのかぁ……」
自分以外にも沢山転移してきた人間がいると聞いて男は、ほっとしたようにため息をついた。
イツキはデスクに両肘をつき顔の前で手のひらを合わせてじっと男を観察していた。
「で君、名前はなんていうんだい?」
唐突にイツキは男の名を聞いた。