納得
「なんだと?!」
皇太子は驚いたように声を上げた。
「踊り子の特技は、ご存知の通り『魅惑』ですよ」
「そうかぁ。それで俺は舞い上がったんだな」
皇太子の顔には合点がいったと納得した表情と明らかに憤りの感情が浮かんでいた。
「それはどうでしょうかねえ……。ナリスから殿下を今回のパーティーに誘いましたか?」
イツキは表情も変えず淡々と皇太子に質問した。
「……いや、それはない」
皇太子は少し考えてから返事を返した。
「それにもし殿下を入れるつもりであれば、他のパーティーメンバーはそれなりの面子を考えているでしょう。殿下が入りやすいように……でもそうではない。今、彼女は必死に剣士になろうとしてます。踊り子時代の特技は忘れているでしょう。
多分……これは想像ですが、ナリスのその一途な努力に殿下は惹かれたのではないですか?
まあ、その場の雰囲気にも飲まれたんでしょうけど……どうせ。それに、元々面食いのご様子ですからねぇ……殿下は」
「ぐっ」
殿下はたじろいだ。イツキの指摘は図星だった。
「それより問題は、アルカイルです」
イツキは眉間に皺をよせリチャードを凝視した。
「アルカイル?」
怪訝な表情で王子は聞き返した。
「そう、アルカイルです」
「戦士アルカイルがどうした? あれは歴戦の勇者だぞ。ロンタイルの覇者の一人と言われた男だぞ。俺でも知っている」
「そう、歴戦の勇者です。それがレベル5程度の小娘と一緒にパーティーを組むんですよ。どっかの面食いの色ボケしたアル中の王子とは違って真の歴戦の勇者ですよ。何かあるとは思いませんか?」
「お前、さり気に俺をバカにしているだろう?」
皇太子は眉間に皺を寄せて詰め寄った。
「いえいえ、全然」
イツキは思いっきり視線をそらした。
「僕が言いたいのは、あまりにも格が違い過ぎるという事です。色ボケした王子は別として、あの歴戦の勇者アルカイルがナリスの色気に落とされたとは思いにくいのです。何があるんでしょうかねぇ……」
「それを俺に探れっと?」
「いえいえ。そんな事は言ってません。それは僕の仕事ではありませんから……どうでも良い事です。それにこれは僕の単なる思い過ごし……って言う可能性だってありますからねえ……」
続けてイツキは皇太子に質問を投げかけた。
「さて、ここで問題です。殿下。
こんな意味ありげな歴戦の勇者にですよ。騎士として極めたと言っても転職したばかりのレベル1の魔道剣士の殿下。もし、本当にアルカイルが何かを企んでいたとしたら、レベル1のなんの屁の突っ張りにもならない魔導剣士の殿下が立ち向かえるのでしょうか? どうです?」
「厳しいかもな……と言うか、なんか言い方がクドくないかい?」
「いいえ、全然」
イツキは再び思いっきり視線をそらした。
「そうかなぁ……なんか若干、悪意を感じるが……まあ、いい。……もしそういう事があったら、はっきり言って厳しい」
「でしょう? だったら今のまま騎士で入った方が無難だと思いますよ。わたしは。
まあ、本当はあと魔法系が一人欲しいというのは分かりますけどね。でもこの面子だったら大丈夫でしょう」
皇太子リチャードはしばらく考えてから口を開いた。
「そうだな。分かった。転職はしない方が無難だな」
「それがセオリーです。何もないかもしれませんが、無ければ無いに越したことはない」
イツキはそう言って頷いた。
「そうだな」
皇太子は納得したように頷くと立ち上がって
「色々世話をかけたな」
と言って部屋を出て行った。
ドアが閉まる音がした。
「ふぅ」
とイツキは息を吐いて背もたれを倒した。
「やれやれ、単純な皇子で助かった」
とひとこと本音が口から洩れた。