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皇太子リチャード


「……何故、知っている」

王子と呼ばれて男の目が更に厳しくイツキを睨みつけた。


「誰が見ても昼間っから酔っぱらって大暴れしている奴は愚か者だと分かりますよ! 殿下」


「そっちではない!! 何故、俺が王子だと分かったのか? と聞いている」

王子は強い口調で聞いた。


「ああ、そっちですか?……その腰からだらしなくぶら下がっている剣の紋章……惰眠をむさぼる二匹の龍と無駄吠えしている獅子のどうしようもない構図は王家しか使えないでしょう」

とイツキはどうでもいい話のように適当に答えた。


「おい。違うだろう……眠れる雙龍(そうりゅう)獅子(しし)咆哮(ほうこう)は平和を意味する構図だ。悪意に解釈するな」


「そうとも言いますな」

イツキはソファーに座っている王子に紅茶を差し出した。

「ロイヤルティーではございませんが……」


 王子は無言で受け取った。


「何か理由でもありそうですな……殿下」

イツキの目が怪しく光った。



 リチャード・ウオンジ皇太子。

ここナロウ国第一皇子。この国の皇太子、そして将来の王。

そんな殿上人(てんじょうびと)がこんなところで酔いどれて大暴れするのには、何か訳があるに違いない。


 そもそも皇太子が転職ってどういう事だ。

自分の椅子に戻ったイツキはその疑問をそのまま皇太子にぶつけた。

「皇太子であらせられる王子が、転職など有り得ないではないですか?」


狂心(たぶれこころ)にもほどがありますな」

とイツキは諫めた。


「爺と同じ事を言ってくれるな。それは分かっている。分かっているがどうしようもないのだ。頭では分かっているが、気持ちがついて行かぬ事もある」

皇太子はティーカップを見つめて呟いた。


「女……絡みですな。皇太子」

イツキはひとこと呟くように言った。


 皇太子はハッと顔を上げて

「何故分かる?」

と驚いた。


「分かりますよ……普通は……」

イツキはため息交じりに答えると続けて聞いた。


――宮廷貴族に娘は居ないのかぁ?――


「どこの女ですか?……この街にいる女ですな」


 皇太子は言葉ではなく驚きの表情で答えた。

目が大きく見開かれている。吸った息を吐き事さえ忘れているようだ。

まさに息が止まるという状態。


――分かり易い人だ――


 イツキは言葉を続けた。

「女の為に皇太子の地位を捨てますか? それも良いでしょう。私はそういう人間は嫌いではない。でもそれは一時の感情で自分の責務を放棄したに過ぎない。

 厳しい言い方をしますが、殿下は皇太子です。生まれながらに権威と責任を背負って生まれてきたのです。それはこの国・この世界の言い方なら、神が殿下を選んだのです。それを裏切る事は出来ないはずですが……」


 この世界は王権神授説の権化のような世界である……というか本当に神が存在し何かと下界の世界にかかわりを持ってくる。こんな世界で王子が転職するとは、あり得ないのである。

ただ、経験値を積むために皇太子の地位を維持したままならできない事も無い。しかしまずやらないし、必要がない。そんな酔狂な皇族は今まで存在したことがない。


 皇太子は(うつむ)いて

「それも、良く分かっている」

と答えた。


 暫くイツキは考えていたが

「殿下、その女性は美人ですか?」

と聞いた。


 皇太子は顔を上げて、にこやかに答えはじめた。

「ああ、とても美人だ。絶世の美女ではないが愛嬌がある。俺はそういう美人が好きだ。お前もそうだろう?……その上、その女は頭も良い。気立ても良い。まだあるぞ……」


 イツキは皇太子に下らん質問をした事を後悔した。

――まさか、ここでノロケに入るとは思わなかったな。思った以上にこいつはバカだ――


「あー、もう良いです。殿下の気持ちは良く分かりましたから……ゲップが出そうです。で、その彼女は剣士か騎士か何かで夢見る冒険者なんですね。違いますか?」

とイツキは半ば呆れかえりながら王子ののろけ話を遮り話題を変えた。


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