メリッサ
「では、私についてくるが良い」
そう言うとキースはダイゴに背を向けて歩き出した。
ダイゴはその背中に
「よろしくお願いします」
と言いながら後をついていった。
「今日はキースは何も絡んでこなかったなぁ。どうしたんだ?」
イツキはいつものキースの嫌味な言動を予想していたが、何もなくキースが去っていったので気持ちが悪かった。
「何か悪いもんでも食ったのか?」
イツキはオーフェンに尋ねた。
「いや、あんなもんじゃろう……ただ、メリッサが帰ってきた」
「ほほぉ……これでキースも年貢の収めどきか?」
「うむ……」
「うちの娘二人はメリッサの焼きもちのターゲットにされていないだろうな?」
「それは大丈夫だ。メリッサのお気に入りの二人になっておるわ」
それを聞いてイツキは安心したが
「他の奴にいじめられたりとかはしてないだろうな」
と疑い深く聞いた。
「それも大丈夫じゃが……」
応えながらもオーフェンの表情がさっきと違って暗い。
「なんか、さっきから歯切れが悪いな? どうした。オーフェンらしくない」
「うむ……まあ、お主も用が済んだらさっさと帰れ」
とつっけんどんにイツキを追い返そうとした。
「なんだ? 今日はなんだか邪険な扱いじゃね?」
とイツキは怪訝な表情を見せて言った。
「いや、そんな事はないぞ」
とオーフェンは首を振ったが、如何にも行動がよそよそしい。
「だから用が済んだらさっさと帰れ」
オーフェンはまるで犬でも追い払うようにシッシと手を振ってイツキを追い立てた。
ちょっとムカッとしたイツキだったが、ロンタイル最強の魔王オーフェンがこんな態度を取るのはよっぽどの事だろうと思い何も言わずに去ろうと思った。
その時、広間に女の声が響いた。
「何! イツキが来ているとな?」
「なんだか騒がしいな?」
イツキは声のした方に視線を移した。
「ちっ! 見つかってしもうたか」
オーフェンが舌打ちをして顔をしかめた。
「何に見つかったんだ?」
イツキは全く状況を理解できていなかった。
サルバがイツキの袖を引いて
「さ、こちらへ」
と隣の部屋へ導こうとした瞬間に広間の大扉が勢いよく開き一人の黒騎士が入ってきた。
よく見るとそれは女性騎士だった。
「黒槍騎士?」
イツキは眉間に皺を寄せてその騎士を見た。
「いや、黒薔薇騎士か?……え? まさか?? メリッサ?」
イツキは一瞬嫌な予感がした。
それはまたメリッサと戦う事になるという予感ではなく、更に自分にとってどうしようもない不幸が舞い降りてくるという予感だった。
「間に合いませんでしたな」
そう言うとサルバはさっさとイツキから自分の身を守る様に離れていった。
「え? おいサルバ?」
と声を出した途端イツキはその黒薔薇騎士に激しく抱きつかれた。
「会いたかったぞぉ。マイハニー」
とイツキに強烈な頬ずりを喰らわしてきた。
まぎれもなくこの金髪の黒薔薇騎士はメリッサだった。