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キース登場


 二人は勝った。勝負は一瞬だった。

目の前に五人の密猟者が転がっていたが、五人ともまだ死んでいなかった。


「さて……このまま死ぬか? 魔獣は殺すなとは言われているが、人は殺すなとは言われていない。どうする?」

とアイリスは地面に這いつくばる男たちを冷たく見下ろして聞いた。


 密猟者たちは力なく首を振った。声も出なかった。


 アイリスは

「ふう」

とため息を付くと男達に回復薬を使った。男たちはなんとか動けるまでには戻った。

男たちは命拾いをしたようだ。


「今度会ったら、殺すよ。分かったか?」


「はい……」

そう言うと男たちは転がるようにして逃げていった。


「エリーがここに来て初めてとどめを刺したのが、同じ人間にはしたくなかった。だからこれで良いよね。でももう黒騎士になったんだから無意味だったかもね」

とアイリスは笑いながら言った。


「ううん。ありがとう」

 エリザベスはアイリスの思いに感謝したが、ここに来て恐怖が蘇った。ダガーを握ったまま手が開かなかった。

アイリスはその手を優しくとって、撫でながら指を開いて言った。


「もう大丈夫よ。エリーはよく戦ったわ。頑張ったね」

と言ってエリザベスの頭を撫でた。

エリザベスはやっと落ち着きを取り戻した。


 そこにキースが現れた。

「おほほほほ。よく戦い抜きましたね。流石は我が黒騎士(シュヴァルツリッター)ですね」

いつものように軽いノリで現れたキースだった。どうやらキースはこの二人の様子を見守っていたようだった。


 その声を聞いたとたん何故か腹立たしい気持ちになったアイリスとエリザベスであったが、それを顔には出さずに二人は直立不動で迎えた。

それを知ってか知らずかキースはにこやかに二人に話しかけた。


「いい面構えになりましたね。お二人共。少しは黒騎士らしくなったようですね」


「ありがとうございます」

二人はまっすぐ前を見たまま声を揃えて言った。


「ところで何故、あの密猟者共を殺さなかったのですか?」

とキースはアイリスに聞いた。その声は感情を全く感じさせない冷たい口調だった。


 明らかに理由は分かっているのに聞いてきていた……そんな感じを二人とも受けた。

エリザベスは唇を噛んでどう答えていいのか迷っていた。


「あそこまで弱い者を殺すのは黒騎士の名が(すた)ると思い、見逃してやりました」

アイリスが同じ姿勢のまま答えた。


「ほほぉ……殺す価値もないと?」


「はい」


「ふむ」

 キースはアイリスの瞳を黙ってしばらく見ていたが、目をそらすと

「ま、良いでしょう」

と二人に言った。


「しかし、()るべき時は躊躇(ちゅうちょ)なくお殺りなさい」


「はい」

二人はまた声を揃えて同じように返事をした。


「ま、あなたにはそんな事は余計な心配でしたね」

とキースはアイリスの耳元で言った。

アイリスは少し驚いたような表情を見せてキースを見つめたが


「では今回の訓練はこれで終わりです。宮殿に帰りますよ」

とキースは言って宙に浮かんだかと思うと、そのまま空の彼方へと姿を消した。


 その姿を見送るとエリザベスは

「アイリスは飛べるの?」

と少しホッとした表情でアイリスに聞いた。


「まさか? 無理!」

とアイリスは即答した。


「そうだよねえ……では歩いて帰りますか……」

とエリザベスは、疲れ切った表情を見せながらも笑った。


これで二人の黒騎士導入研修が終わった。

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